中年の会話は「あれ、あれ」のオンパレード。それでも“物忘れ”は悪くないと感じた女同士のとある会話【日日更年期好日】

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コクハク

昨日の食事を忘れる

 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まった老化現象についてありのままに綴ります。第40話は「物忘れと本番力」。

【日日更年期好日】

 キッチンで料理をしていて、ふと何かを思いついたので洗面所に何かを取りに行った。

(…あれ? 私、何を取りにきたのだろう?)

 40代を迎えた頃から始まった日常的な物忘れ。若い頃の記憶は鮮明で、当時覚えた曲の歌詞はいまだに脳裏へ刻まれているのに、昨日食べたものさえ忘れてしまう。私は他人よりも記憶力が良いという自負がある。人生で最初の記憶は3歳で、親子3人で風呂に入っていた。が、母親に話すと真っ向から否定される。

「お父さんと一緒にお風呂に入るなんて、あるわけないじゃない!」

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 否定ぶりがあまりにも全力なので、その記憶が事実であると自ら証明している母。他にも妹が生まれた5歳当時、夜中に叩き起こされて着たセーターの柄や、深夜の病院、看護師に間違って「男の子です」と言われて、飛び上がって喜んだ父の姿(即座に「女の子だ」と訂正された、その後の落胆ぶりも)など、幼い頃の記憶のボリュームといったら。30代でも記憶力は絶好調で、編集者として参加したとあるタレントさんのインタビュー時、ライターさんのレコーダーが録音されていない事件が起きた。その瞬間、私の脳内レコーダーが動き出して「今から話す内容をメモしてくれ」と、トーク内容を完全再現して話した。本人が意識していないのに、全て覚えていたらしい。

 記憶力自慢をしたいわけではなく、物忘れとは縁遠い生活ぶりだったはずなのに、海馬は確実に劣化。冒頭の“何か”を思い出せないまま、キッチンへ戻った。あれは一体なんだったのか。

 物忘れにいちいち落胆していると中年なんてやっていられない。電池と同じで記憶力も摩耗していくのだ。でも時には物忘れも悪くないと思わせてくれる出来事があった。

「あれ」「それ」でつながるおばさんトーク

 自分の物忘れがひどくなるのなら、同年代も同じだ。最近、同級生と集まって話していると「あれ」「それ」の指示代名詞オンパレードになる。先日も同級生と1時間近く電話をしていたけれど、実る話しはほとんどなく、1時間の半分のワードは指示代名詞で埋め尽くされていた。

「昔さ、一緒に食べたじゃん。あれ、なんだったけ?」

「あ〜、あれだよ、あれ、あれ、あれ」

「ねえ、私らの会話、ほとんど、あれそれじゃん」

「笑っちゃう」

 実は同級生、子どもの病気や、家庭問題で悩んでいた。何かしてやりたいと思ったけれど、独身は解決策に導けない。私は敢えて問題には触れず、慰めになればと昔話やバカ話ばかりを続けた。何を話したのか事細かに伝えろ、と言われるとその結果が「あれ」「それ」に終わるとはなんとも情けないけれど、同級生の気持ちが和んでくれたならそれでいい。ちなみに「あれ」「それ」でも二人の会話は成り立っていて、相手の言わんとすることを理解できている。

中年こそ、本番力の見せどころ

 ただ物忘れおばさんも“本番”には踏ん張りが効くらしい。

 今、FM静岡の『K-MIX GOOD-TIE!』という番組で、準レギュラーを務めている。トーク内容の大半は私の人生の十八番であり、得意ジャンルとなったテレビドラマについて。台本にネタは仕込んでいくけれど、トークでは俳優名や過去作タイトルがボンボン飛び出す。その饒舌ぶりは物忘れなんぞ全く感じさせず、指示代名詞も出てこない。パーソナリティーのアナウンサーや、スタッフのフォローもないとは断言できないが、なんとか放送は成立している。これも楽しみにしていてくれるリスナーを落胆させまいとするプロ根性だろうか。

 思えば司会者やラジオD Jこそ、中高年が多く担当している。記憶力こそ低下するけれど、本番力は年齢を重ねれば重ねるほど、高まるのかもしれない。そんな期待を込めつつ、次回は8月13日(水)11:30〜から、先述の番組に3時間半生放送で出演予定だ。ご興味ありましたら、ぜひ『radikoプレミアム』でおばさんドラマトーク、お聴きください。

(小林久乃/コラムニスト・編集者)

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