「あの人、闇ルートだよ」AD時代に聞いた芸能界のウラ事情。実力だけじゃ残れない“生々しい”駆け引き
「実力と人気」だけではない芸能界の裏事情
世間を揺るがす芸能界のさまざまな噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸能界ですが、昔はグレーなこともたくさんあったのだとか。かつて芸能業界に近しい場所で働いていた女性が見た光景とは?
「テレビに出てるけど、あの人“闇ルート”だからね」
まだ駆け出しのADだった頃、先輩ディレクターからそう耳打ちされたのをよく覚えている。
人気バラエティ番組の収録現場。芸歴の浅い芸人がひな壇の中心に座り、やたら目立つ扱いを受けていた。だが裏では「表の営業ルートではなく、裏のつながりで仕事を得ている」と囁かれていた。
当時の私は、芸能界は「実力と人気」で成り立つと信じていた。だが現場にいると、それだけでは説明できない出来事が頻発する。
キャスティング会議で名前が唐突に浮上し、誰も反論できぬまま決定する。後から聞けば「大口スポンサーの意向」や「代理店のゴリ押し」が理由。
制作スタッフが頭を悩ませても、その力学には逆らえなかった。
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直接現金で…ギャラにまつわる黒い噂
衝撃的だったのは、あるタレントのギャラの噂だ。通常は事務所を通じて振り込まれるはずが、「直接現金で受け取っている」と囁かれていた。
局のシステムに記録は残らず、スポンサーや関係者がポケットマネーで動かすという。真偽は不明だが、その人物が急激に露出を増やしていた事実を見ると、私には全くの虚構とは思えなかった。
深夜の編集室や打ち上げで、先輩たちはこう漏らした。
「実力で売れたわけじゃないからスタッフ受けは悪い」「でもスポンサーが絡んでる以上、誰も逆らえない」。
現場は華やかさの裏で、力関係に翻弄される場だった。
ある若手芸人の話も耳にした。劇場出演ばかりで燻っていたが、豪勢なパーティーで経営者と繋がり、口利きによってテレビに呼ばれるようになったという。
本人も「人脈でチャンスを得た」と半ば自嘲気味に語っていたそうだ。
複雑な力学に現場は翻弄されるばかり
もちろん、すべての出演者が裏ルートに頼っているわけではない。純粋に才能で勝ち抜く人も確かにいる。
ただし現場にいると、「誰かの後ろ盾」で押し上げられる存在を否応なく目にする。
それは往々にして一過性で、後援が途切れれば露出は一気に減った。光の当たる舞台の影には、常に複雑な力学が渦巻いていた。
こうした事情は、現場の士気にも影を落とした。私たちが時間をかけて準備した企画より、突然決まった“推されタレント”が優先される。
番組は成立するものの、現場の空気は冷める。「あの人が決まったなら、また裏だろ」とスタッフ同士で囁き合うこともあった。
いま思えば、それもまた芸能界の現実だ。
スポンサー、代理店、事務所、局——それぞれの思惑が交錯する中で、タレントは駒のように動かされる。本人が気づかぬうちに、いつの間にか“闇ルート”に組み込まれることすらある。
華やかな舞台の裏で渦巻くもの
ただ、私の中にはいまも迷いが残る。先輩が“闇ルート”と呼んだ人たちが本当に裏金やコネだけで仕事を得ていたのか、それとも噂に現場の人間が尾ひれをつけていただけなのか。
境界線は曖昧で、確かめる術もなかった。ただ一つ確かに言えるのは、業界が常に“不透明さ”と隣り合わせであるという事実だ。
「芸能界は夢を売る場所」とよく言われる。だが現場で見たのは、夢をどう形にするかを巡る生々しい駆け引きだった。
ADとして汗をかきながら、ときどき自問した。「この番組は誰のために作られているんだろう?」——視聴者か、スポンサーか、それともタレントか。その答えはいまも出ていない。
ただ一つ確かなのは、テレビに映る光景だけが芸能界のすべてではないということだ。ひな壇で笑うタレントの背後には、数えきれない力の交錯が絡んでいる。
華やかな舞台を支える人間ほど、その現実を知りながら働いているのだ。
(おがわん/ライター)