元テレ東・高橋弘樹×元横浜DeNA・高森勇旗「見込みのない新規事業の止め方」…虚栄心で突き進む社長を誰が“殺す”のか?
誰にでもいつかは「退きどき」がやってくる。古きよき時代の“サラリーマン社会”だったら、大半の人にとっての「そのとき」は定年退職だっただろう。だが、いまや自分の意思で「そのとき」を早める人もいれば、自分の意思、年齢とは関係なく唐突に「そのとき」を突きつけられる人もいる。いずれのあとにも待ち受けているのは不安との戦いだ。では、そうした戦いに勝ち、新たな人生、働き方を切り拓くために必要なものとは何なのか?
会社の出世レースから途中離脱した元テレビ東京のヒットメーカーと、一流選手への道に見切りをつけ、自由とやりがいを求めて新天地に飛び込んだ元プロ野球選手。さまざまな困難にぶつかりながらも、着実に人生を軌道に乗せている2人は果たして、どう不安に打ち勝ち、どのように異業種への挑戦で成功を収めたのか。
早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏の最新刊『非常識な「ハイブリッド仕事論」』(祥伝社)から抜粋してお届けする。
◇ ◇ ◇
入山章栄 個人の“退く力”とともに、大事なのがチームや組織、企業の退く力だと思います。高森さんが事業や投資から手を引いたほうがいいと思うのはどういう状況でしょうか?
高森勇旗 社長の“個人的な思い入れ”が強すぎるときですね。ビジョンに引っ張られてやめられないのであれば、まだタチがいいほうですが、自分自身の劣等感や個人的な思い入れに引っ張られてやめられないのはかなり危ないですね。
劣等感や承認欲求といったものはもちろん社長にもあります。なんなら、経営者のほうが普通の人より強いこともある。その結果、こういう事業を成功させることで周りから認められたい、といった思いで新規事業を始めてしまうと危険ですね。社長は成功するまでやろうとします。ですから、それに振り回される社員がとても不幸です。しかも、個人的なこじれた感情が入っているので、かなり客観性を失います。そうなると、マーケットが見えなくなり、どんどんドツボにはまっていく。こんなパターンが往々にしてありますね。
入山 そういう場合、どうやって社長を説得するんですか?
高森 「もうこれしかない。ビジネスで名を上げるんだ」と社長が沸き立っているときに、「社長、このビジネスはうまくいきませんよ」と言っても、聞く耳なんて持ってもらえません。だから、「社長、どんどん行きましょう。もっと行きましょう」と、とことん突っ込ませるのです。どんどん突っ込んでもらって早く失敗してもらい、そこで初めて説得する。どうにもならなくなってあきらめがつく頃に、ようやく聞く耳を持ってもらえますから。
入山 すごい。なかなかないアプローチですね。
高橋弘樹 ほんとに芯を食っている話だと思いました。僕は経営コンサルの経験はありませんが、組織として退く力は基本的になくていいのではないかと思うタイプです。経営者とマネジャーでは立ち位置が違いますが、基本的にマネジャーレベルだったら、とくに退かずに最後まで突っ込んでいい。そして、いよいよムリとなったら誰かがそれを“殺せば”いいのです。そうした責任者を“殺す”のが社長の役割だと思います。それくらい真剣にやっている組織じゃないと人はついてきません。仮に責任者が中堅幹部なら、組織としてその人に賭ける。「何があっても成功させるんだ」というぐらい猪突猛進じゃないと、たぶん誰もついてこない。ただし、その幹部が突っ込みすぎていたら、誰か“殺す”人がいないと大失敗します。それが社長の役目です。
では、社長自身が突っ込んでいたらどうするか。やはり、僕も高森さんの言うやり方が正しいと思う。そもそも、すぐに退くような人だったら、社長になっていないはずですから。社長というのは基本、人の言うことを聞きません。だから、社長にはもともと退く力なんてない。だから、最後は誰が社長を“殺す”かなのです。
入山 普通の会社に、社長を“殺せる”人はなかなかいませんからね。
高橋 だからこそ、ちゃんと“殺す”人がいれば退く力は「必要なし」というのが僕の考えです。
入山 つまり、組織には退く力がないし、退くぐらいだったら、そもそも本気でやっていなかったということになるわけですね。熱意が上か、劣等感が上か。
高橋 撤退の仕方が上手い人というと、誰になるのでしょうかね。
入山 ソフトバンクの孫正義さんは、自分のことを「撤退の名人」だと言っています。
高森 孫さんは、「拡大のスピードより、撤退のスピードで経営者の力がわかる」とも言っていますよね。