奈良の鹿愛護会が語った現場のリアル…「シカさんをいじめるな!」の裏に横たわっている大問題
「外国人観光客が奈良のシカを足で蹴り上げ、殴って怖がらせる人がいる」。自民党の高市早苗総裁の発言をきっかけに、ネット上で「シカさんをいじめるな!」との声が噴出し、大きな議論を巻き起こした。
テレビ局が「暴力の実態は確認できない」と報じると、今度は「やらせではないか」と炎上。情報は錯綜し、真偽不明のまま感情的な意見が飛び交っている。人と鹿が共存する古都のシンボル、奈良公園で今、何が起きているのか。
長年にわたり現場で鹿の保護活動を続ける、「一般財団法人 奈良の鹿愛護会」の中西康博副会長に実態を聞いた。
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──高市氏らの発言を機に、外国人観光客による鹿への暴力行為が問題視されています。現場では実際にそうしたことは起きているのですか。
「我々、奈良の鹿愛護会には、『鹿が暴行されている』といった現場からの通報や報告はこれまで一件も上がってきていません。もちろん、我々自身も常時パトロールをしていますが、鹿の腹を蹴り上げるような悪質な暴行を現認したこともありません」
──SNSなどでは情報が錯綜し、過激な意見も見られます。また、実際の動画なども出回っています。
「テレビのインタビューで『暴力は見たことがない』と答えた地元の方が、ネット上で『やらせだ』などと個人情報を晒されて攻撃されるといった事態も起きています。我々も『見ていない』と言うと、何かを隠しているかのように言われることもありますが、嘘をついているわけでは決してない。あくまで『団体として暴行の通報は入ってきておらず、職員も現認していない』という事実を述べているだけです。
1日何万人もの人が訪れるのだから、これまでに許しがたい行為が起きているであろうことは否定できません。しかし、日常的に頻発しているわけではないと思います。もちろん、そのような行為があれば、奈良の鹿は国の天然記念物ですから、文化財保護法違反として警察に通報する体制は整っています」
──「暴力」の定義も人によって様々だと、地元の方々への聞き込みをしていて感じました。
「そうだと思います。例えば、シカは鹿せんべいを持った人間に群がりますが、当たり前のように手や荷物をかじります。これがけっこう痛いんですよ。反射的に払いのけたり、お子さんを守ろうとして手で払う場面はよく見ます。たしかにその瞬間だけを見れば鹿に手を上げているように見えるかもしれませんが、それは身を守るための自然な反応であり、仕方のないことだと我々は考えています」