末期がんで余命わずかの65歳男性…緩和ケア病棟か自宅療養か
「S状結腸がん末期」の65歳の男性患者さんは、「歩行器を使ってでも、最期まで自分の店に立ちたい」という強い思いから、BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)を選択し、私たちのクリニックで在宅医療を始めました。BSCとは、がんに対して積極的な治療は行わず、痛みなどの身体的苦痛を和らげ、QOL(生活の質)の維持・向上に重点を置いて療養を行う方針のことです。
この患者さんは当初から強い意志を持ち、入院中も化学療法などの治療は受けませんでした。また、入院時に貧血のため行っていた輸血も、在宅医療開始後は希望されませんでした。
一方で、同居する娘さんと奥様は患者さんのかたくなな姿勢を心配し、最期の備えとして病院の緩和ケア病棟への入院を希望していました。ただし、この病棟を利用するには月1回の通院が必要なため、当院の在宅診療と病院外来を併用する形を取りました。
在宅療養が始まってしばらくしたある日、娘さんから緊急の連絡がありました。
「父がしゃがんだ後、しばらく立てなくなってしまって……。今は少し歩けるようにはなっていますが、6月に緊急搬送されたときと同じく、肝臓の出血が原因ではないかと心配です。急ですが、今から診に来てもらえますか?」