「あの子、消されたらしいよ」“噂”が立った瞬間、表舞台には戻れない。芸能界に漂う“沈黙のルール”
枕営業の噂があった若手タレントが…
世間を揺るがす芸能界のさまざまな噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。
現在は清浄化が行われている芸能界ですが、昔はグレーなこともたくさんあったのだとか。かつて芸能業界に近しい場所で働いていた女性が見た光景とは?
「ねえ、聞いた? あの子、もう戻ってこないらしいよ」
その言葉を最初に耳にしたのは、私がまだ業界でアシスタントをしていた頃だった。撮影の合間、メイク室で誰かがぽつりとつぶやいた。
小声なのに、空気を切り裂くような響きだった。誰のことか、名前は出さない。でも全員が察していた。あの“枕営業”の噂があった若手タレントのことだ。
当時、彼女は20代前半。まだ駆け出しで、深夜番組にたまに出るくらいの存在だった。だがスタッフの間では「急にプッシュされ始めた」「スポンサーが変わった」と話題になっていた。
ある時期から露出が一気に増え、その上昇は唐突で、裏で何かが動いているのではと誰もが感じていた。
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「契約終了です」淡々とした説明の不気味
「夜の接待で気に入られた」「大物の“お気に入り”になった」といった話が流れるのも時間の問題だった。もちろん確証はない。
だが芸能界では“噂”が真実よりも先に歩く。信じるか信じないかは個人の自由だが、その空気に逆らうことは難しい。
そんな彼女が、ある日を境にぱったり姿を消した。SNSの更新も止まり、事務所のサイトからもプロフィールが削除された。
関係者に尋ねても「契約終了です」「体調不良で」としか言わない。その淡々とした説明が、むしろ不気味だった。
「スポンサーの機嫌を損ねた」「裏の筋に逆らった」「秘密を漏らした」――理由はさまざまに囁かれた。
どれも確かな情報ではない。けれど、メイク室や打ち上げの席でその話題を避ける者はいなかった。ただ皆、“名前を出さずに”話す。それがこの業界の暗黙のマナーだ。
守ってもらうか、切られるか
一度「そういう噂」がついた人間は、もうまともに仕事が来ない。本人がどれだけ否定しても、空気がすでに決めてしまう。
私がいた現場でも、噂が立ったタレントが急に呼ばれなくなることは珍しくなかった。見えない“線引き”が存在するのだ。
知人のマネージャーCさん(仮名)は言っていた。
「この業界では“守ってもらう”か“切られる”か。上の機嫌を損ねたら終わり。タレント本人より、事務所がどう動くかがすべてなんです」
Cさんは、担当していたアイドルが会食に同席しただけで“そういう関係”を疑われ、結局グループを脱退させられたという。
証拠もなく、ただ空気だけで決まる。それがこの世界のリアルだ。
最初からいなかったかのように
私自身、現場で「察する」瞬間を何度も見てきた。たとえば、ある女性タレントが控室で涙を流していた時、誰も理由を聞かなかった。
「大人の事情」という言葉が沈黙を強制する。
やがて彼女も、次の収録から姿を見せなくなった。誰かが「事務所移籍したらしい」と言い、別の誰かが「干されたんでしょ」と囁く。
真実は誰にも分からない。ただ空気だけが現場を支配する。
「消された」なんてドラマみたい――と笑う人もいるだろう。けれど、この業界では笑えない。
消されるとは、物理的に消えるというより、“存在ごと消される”ことだ。名前も映像も、過去の功績さえもネット上から静かに削除される。
気づけば、“最初からいなかった”ように扱われる。それが本当の怖さだ。
夢と光の裏側で…
私はいま芸能界とは少し距離のある仕事をしているが、ときどき深夜のテレビで、あの頃一緒にいたタレントの姿を見ることがある。
画面の中で笑う彼女たちを見ながら、ふと考える。
「今、あの子は笑えているだろうか」「何かを背負っていないだろうか」と。
芸能界には夢も光もある。だが同時に、誰かの沈黙と犠牲の上に成り立っている側面もある。
“あの子、消されたらしいよ”――その一言がどこまで真実で、どこからが噂なのか。
誰も確かめようとしないのは、知ってしまった瞬間に自分もその闇の一部になる気がするからだ。
だから今日もメイク室では、小声の噂がひそひそと流れている。
名前を出さずに、誰もが“察する”だけで話を終える。
まるで、それがこの世界の正しい呼吸法であるかのように。
(おがわん/ライター)