著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(7)マザーウォーターの畔で

公開日: 更新日:

 数日の滞在中、パブによっては、土地のエールビールとシングルモルトを少し、飲んだ。現地の人々はもっぱらビールのようだった。

 ザ・マッカラン蒸溜所を見学した。ちょうど拡張工事を開始したところだったが、稼働している蒸溜所は酒蔵という感じがした。小さなポットスチル、古びた貯蔵庫。世界的に有名なザ・マッカランがここで造られているのかと、不思議な気持ちになった。

 蒸溜所からほど近いクライゲラヒという街で一軒の小さな宿に入った。「ハイランダーイン」という。この宿のバーで1杯やろうというのである。

 店に入ると正面にカウンターがあり、右手にはテラスがあって、位置関係からして、坂の下には、スペイ川が流れている。
外はまだ明るい。席に着こうとする私に、

「いらっしゃいませ」

 と言ったのは、日本人だった。皆川達也さん。このときすでに、ハイランダーインのバーをマネジメントしていたはずだ。にこりと笑って、迎えられ、ああ、日本語でいいんだなと思った私は大いにリラックスしたものだ。

 ここで、釣りのガイド役であるギリーに隣り合わせた。釣りは好きかと聞かれて好きだと答えると、じゃあ、今度来るときは1週間、俺を雇わないかと持ち掛けてきた。スペイ川に上がってくるサーモンを釣らせてやると言う。彼のこげ茶の瞳が夕日を映し、彼の手にあるザ・マッカラン12年の液面はキラキラと輝いている。

 ぜひ、来たい。先ほど見たスペイ川には腰まで川に入ってフライ竿を振る紳士の姿があったのだ。

 私は、ギリーにならってザ・マッカラン12年をもらった。あの1杯が、これまでに飲んだ、一番のマッカランだ。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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