著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。最新刊は「酒好きの記」(集英社新書)

(54)コロナの頃 ~その2~ 蕎麦屋酒

公開日: 更新日:

 建物の中ではなく、庭の席に座り、酒にした。選んだのは「菊水 辛口」。つまみはだし巻き玉子だ。庭席は換気を気にする必要がないから、のんびりと飲める。それだけのことが妙に嬉しかったことを、今更ながら思い起こす。あの頃から、事態はさらに悪くなっていき、マスク、消毒、衝立越しの会話が求められるようになるのだが、この頃は、人の心が委縮しきってしまうまでにはなっていなかった。2020年の6月は、そんな時期だった。

 晴れていた空が曇った。やがて雨が降ると予報が出ていた。少し急いで、鴨南蛮と「澤乃井」の燗で締めにかかる。

 熱々の鴨とネギを口へ運び、汁をすすり、酒を飲む。ああ、こんな時間があるなら、贅沢は言うまい。いつもよりじっくり味わうように、鴨南蛮と燗酒を楽しんだ。

 寺の門前からバスで私鉄の駅まで帰るつもりだったが、気持ちは満ち足りていて、30分ほど歩こうと思った。

 野川を渡り、布田天神の脇を抜けて調布駅まで。マスクを煩わしく感じながら、それでもゆったりと歩いた。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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