ソビエト連邦時代に建てた科学施設を撮影した写真集「ソビエト・ラボ失われゆく科学技術遺産」エリック・ルシト著 金山浩司監修 石田亜矢子訳
「ソビエト・ラボ失われゆく科学技術遺産」エリック・ルシト著 金山浩司監修 石田亜矢子訳
地中から出現した柱から支柱が広がり巨大なドームを支える銀色に輝く高さ45メートルのタワーや、直径100メートルもある鉄骨でできた巨大なクモの巣の上に出現した3本足の化物のような構造物──特撮番組に登場する基地のようにも見えるこれらは、実はソビエト連邦時代に建てられた科学施設である。
1917年のロシア革命時、工業生産がかろうじて芽生えつつある状況だったソ連は、わずか25年で科学と産業の超大国へと変貌。第2次世界大戦後は、冷戦が深刻化する中、西側諸国の宇宙探査、原子力など戦略分野における技術開発に追いつき追い越そうという動きが加速し、ソ連を構成する共和国の多くの地域に研究所が建設された。体制崩壊前にはソ連の研究者は130万人に上り、その数は世界の技術者の3分の1、物理学者は4分の1に相当したという。
本書は、そうした旧ソ連時代の各共和国に残る研究機関を撮影した写真集。
冒頭で紹介したタワーは、カザフスタンの標高2750メートルの地にある「アッシー=トゥルゲン天文台」。
その前身である「フェセンコフ天体物理学研究所」は、1947年に日本人捕虜の労働力を投じて建設され、スプートニクをはじめとする人工衛星を追跡する高度なハードウエアとソフトウエアの開発などを担ってきたという。
この天文台のタワーは、1980年代後半から建設が始まり、ドームと躯体部分の完成後、ソ連崩壊のあおりを受け、望遠鏡は何十年もの間分解された状態で放置されてきたが、自らの資金で建設を再開。25年の中断を経て2017年に稼働が始まったそうだ。
巨大なクモの巣状の構造体はウクライナのハルキウの「電離層研究所」で、1975年から地球大気の上層領域である電離層の定期観測に用いられてきたカセグレンアンテナだ。
ハルキウには他にも多くの研究機関があるが、電波天文学研究所のブラウデ天文台は、2022年に侵攻してきたロシア軍によって軍事拠点として占拠され、略奪と破壊によって作動不能状態に。奪還後も敷地内には地雷が残り、一部は砲撃によって破壊されたが、ウクライナの天文学者たちは施設の修復と近代化に取り組み続けている。
一方、アルメニアの山岳地帯に設置された電波工学望遠鏡の巨大な主反射鏡や未完成のままの太陽光発電所など、財政支援を失い放置されたままの施設もある。中には、共産主義のシンボルやスローガンが描かれたソ連時代のポスターやモザイク画、さらにレーニンの写真がいまだに掲げられている施設もある。
稼働中の施設の多くは老朽化が進み、並ぶ機器は前時代的にも見える。それでも、各国の科学者たちは、ソビエト崩壊後の苦難に立ち向かいながら、施設の維持、改良に不断の努力を怠らない。
人類の知への探求心は、国を超え、環境を言い訳にせず、不変であることを教えられる。
(グラフィック社 3300円)



















