プーチン演説は拍子抜け 逆に際立った“弱気と限界”…現実味おびる「右腕」への権力禅譲
ウクライナ戦争の節目とされたロシアの対独戦勝記念日は、拍子抜けの展開だった。
有力視されたプーチン大統領による「戦争宣言」も、核戦争時に大統領が乗り込んで指揮を執る軍用機「イリューシン80」が飛ぶ予定だった航空ショーもなし。むしろ、パンパンにむくみ、かつての精気は見る影もないプーチン大統領の老体ぶりが際立った。ロシア軍よりも先に“戦線離脱”する可能性が浮上している。
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モスクワの中心部「赤の広場」で行われた9日の式典で、プーチン大統領は約10分間演説。
「昨年12月、われわれは安全保障に関するさまざまな提案を行ったが、すべてムダだった。NATO(北大西洋条約機構)は耳を傾けなかった」
「キエフ(キーウ)は核兵器取得の可能性を明らかにしていた」
「われわれにとって受け入れがたい脅威が国境につくり出された。米国や同盟国が肩入れしたネオナチとの衝突は避けられないものになっていた」
などと、虚実入り交じった持論を展開し、「NATO加盟国から最新兵器が提供される様子を目の当たりにし、危険は日増しに高まっていた。ロシアは侵略に対して先制的な対応を取った。必要かつタイムリーで、唯一の正しい判断だった」と独自のロジックでウクライナ侵攻を正当化。「勝利のために。万歳!」と演説を締めくくったが、勝利を最も不安視しているのは他ならぬプーチン大統領かもしれない。
筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう指摘する。
「演説の最大の焦点は、ロシア軍の犠牲に言及した点です。負傷兵や遺族の暮らしを保障する大統領令に署名したとも言っていました。『特別軍事作戦』の失敗を認めた事実上の敗北宣言と言っていい。戦況が好転する見通しもなければ、国内基盤も揺らいでいるためでしょう。プーチン大統領は非常に弱気になっている印象を受けました」
右腕のパトルシェフ安全保障会議書記なら路線維持
電撃戦でキーウを攻略するプランAにしくじり、主要都市を陥落するプランBも失敗。目下、ロシア軍は東部・南東部に猛攻し、ロシア領からクリミア半島をつなぐ「陸の回廊」の確保に躍起だが、戦果は見通せない。先月末、複数の英メディアが「プーチンはがん手術を受ける」と報じたことで、ついに禅譲するとの見方が広がっている。プーチン大統領はかねてパーキンソン病や甲状腺がん、胃がんなどが疑われている。
「体調悪化が深刻な上、体制を支えてきたオリガルヒ(新興財閥)の離反も相次ぐ。肉体的にも精神的にも限界に達したプーチン大統領が、右腕のパトルシェフ安全保障会議書記に禅譲し、引退するシナリオが現実味を帯びています。パトルシェフ氏は対欧米強硬派。『特別軍事作戦』を推奨した人物で、路線は維持される。体面を保つギリギリの線と言えるでしょう」(中村逸郎氏)
パトルシェフ氏もKGB(ソ連国家保安委員会)出身で、後継組織FSB(ロシア連邦保安局)の長官ポストをプーチン大統領から引き継いだ。さかのぼれば、アル中悪化や親族の不正蓄財で進退窮まったエリツィン元大統領は、裏切りそうにないプーチン大統領に権力を譲って逃げ切った。
世界を敵に回したプーチン大統領に同じ手が通用するのか。