アルファオフィス247(起業長屋の女将)藤井晶子さん(3)「パソコンは触ったこともなかった」
2003年にレンタルオフィス事業に参入した藤井さん。元は縁もゆかりもない百貨店の販売員だった。
高度成長期に販売員からディスプレーデコレーターに転身。結婚後は札幌、東京、アメリカと生活拠点を移す中、喫茶店やショールームの仕事を経験した。コーヒーメーカーの飛び込み営業では支店でトップになることも。
関西に戻ってからは、家業の家庭用品製造卸の女性派遣販売員の教育を担当。そんな折、知り合いのビルオーナーから「ワンフロアをレンタルオフィスにしたので責任者をしてくれないか」とのオファーがあった。
「ビルオーナーは、受付と派遣社員を置いておけばいけると簡単に考えていたようで、どうやらうまくいかなくって私に声がかかったようです。これが天職となるのですが、何かをしたいと探すより、やるべきことは人が持ってきてくれるものなんですね。これは起業でも同じです。当時は起業という言葉も認知度が低く、レンタルオフィスという名称も浸透していなかった。ですから、どうやって運営したらいいかなんて誰も分からない状態でした。何せ、名刺交換をしたこともないし、パソコンも触ったことがない。やってみると思いのほか手間のかかることが多く、『ああ、これは場所貸しだけではなく、ソフト面が大事なんだ』と気づきました」
異業種交流会に参加しまくって…
そんな中、デパートで派遣社員の教育係をしていた頃の経験が生きた。
「それは愚痴の聞き役としての経験。デパートでは女性従業員が多く、男性の上司は話を聞くことを面倒がるのでその役回りをしていました。とにかく店員が辞めないように愚痴を聞く。それだけで不思議と現場は回るんです。インキュベーションオフィスの起業家も同僚がいないわけですから、同じように愚痴がたまる。これを吐き出してもらうんです。ある時は人生相談にも乗る。私のつたない経験が生きてくる仕事でしたね」
集客のための営業もしたという。
「大阪市の施設である大阪産業創造館(産創館)に行って異業種交流会に参加しまくりました。名刺を配りながらレンタルオフィスを宣伝するわけです。売り文句は『産創館より安いですよ』『時間も9時に終わりとか堅いことは言いませんよ』です。ある意味、営業妨害です(笑)」
こうして利用者を増やしていき、自分のところでも異業種交流会を盛んに開催していった。当時は、藤井孝一氏の「週末起業」がブームだったので、サラリーマンの参加者も多かった。
「もちろん藤井さんも講師として招き、セミナーには大勢の方が参加されました。目立ったのは転職や起業を考えているサラリーマン。職場では人間関係が完結してしまっているので、違う人と知り合いたいというニーズが高かった」
もらった名刺を整理してメルマガの登録をしたり、参加者の電話を受けたりしたところ、藤井さんの周りには次第に人が集まってくるように。 =つづく
(取材・文=中森勇人)