六川亨
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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

ヘタフェ久保建英とJ大宮時代の家長昭博がダブって見えた

公開日: 更新日:

 スペイン1部リーグのビジャレアルからヘタフェに移籍した日本代表MF久保建英(19)が移籍後2試合目で初スタメンを飾ったのは、1月21日(日本時間)に開催されたウエスカ戦だった。

 ポジションは縦へのドリブル突破にカットインからのシュートやラストパスも狙える、最も得意な右サイドハーフである。

 試合開始から積極的にボールに絡んでいった久保は前半18分と34分直接FKから見せ場を作る。2019/2020年シーズン在籍したマジョルカではFKを蹴らせてもらえなかったが、早い段階でキッカーを任せられるあたり、ボルダラス監督とチームメイトから信頼を勝ち得ていることが伝わってくる。

 久保は後半35分に退いたが、直近4試合で未勝利だったチームが久保の加入後は連勝したことで順位も(その時点で)11位に浮上した。

■ウエスカ戦での久保の変化

 そのウエスカ戦で久保のプレーを見ながら気付いたことがある。これまでのように、手で「ボールを出してくれ」と要求しなくなったことだった。

 久保がJ3リーグにデビューした2016年、当時FC東京のUー23(23歳以下)を率いていた安間貴義監督(現岐阜監督)は、久保のプレーをこう評していた。

「最終ラインでマーカーと駆け引きを繰り返しながら、スッと引いてマークを外すと半身になってボールを呼び込むんです。自分の前にスペースを作り、そこにパスが来ればワンタッチで、場合によってはノータッチでゴールに向かっていけます」

 一般的にサッカー選手というのは、マークされることを嫌がるものである。しかし、久保はJ3に登場した15歳のころから、マークされることを苦にすることはなかった。マークを外す術を知っていたからだ。

 同時に、久保ならではのストレスを抱え込んでいた。なかなか自分の欲しいタイミングで味方からパスが出てこないのである。

 走りながらボール保持者に対して左手の手の平を上にし、自身の足元に向けて「ここに出して欲しい」とアピールしても、J3ではなかなかパスが出てこない。それでも久保は腐ることなく、動き直してパスを要求していた。

 さすがにJ1でプレーするようになると周囲の選手のレベルも上がり、手を使ってアピールする回数は減った。しかし、ビジャレアルでは出場機会が限られ、与えられるポジションもコロコロと変わったこともあり、再び久保がアピールするシーンが目立つようになった。

 それがウエスカ戦では何の不自然さもなく、右サイドの久保にボールが集まっていくようになった。

 久保も簡単にボールをロストせず、ドリブル突破を図ったり、あっさりとマーカーを置き去りにするプレーも披露した。

 チームメートから「オレたちがハードワークしてゴールを守る。攻撃は久保と(トップ下の)アレニャが牽引してくれ」というメッセージをウエスカ戦から感じ取ったものである。しかしながらーー。

 久保の<閃きのあるプレー>が、決定的なフィニッシュに結びついているかというと「まだそこまでヘタフェの攻撃は熟成していない」というのが正直な感想である。

■<巧い>選手だが<怖い>選手にはなっていない

 いささか唐突かもしれないが……久保のプレーを見ていてオーバーラップしたJリーガーがいた。大宮アルディージャでプレーしていた当時の現川崎MF家長昭博(34)だ。

 ガンバ大阪アカデミーの最高傑作と高評価され、高校3年でプロ契約を結んだ。04年の新潟戦でJリーグ史上初となる「2種登録選手」としてJデビュー戦で初ゴールを決めた。G大阪ジュニアユースで同期だった本田圭祐(2人は同じ誕生日!)はユースに昇格することができず、石川・星稜高に進学した話は有名だ。

 そんな天才児もG大阪では定位置を確保できず、その後も大分、C大阪、マジョルカ(大久保嘉人、久保と合わせて3人の日本人がプレーしている)、韓国・蔚山現代、大宮と渡り歩いた。

 大宮ではボールを持てばロストすることは少ないし、小柄ながらも強靱なフィジカルと類まれな攻撃センスで15年にはチームをJ2初優勝とJ1昇格に導いている。

 しかし、感情や闘志を前面に押し出すタイプではなく、プレー自体は巧いのにゴールに直結するプレー、局面を一気に打開するようなプレーは限定的だった。なので「天才は天才。でもアイツは手を抜いている」と話すサッカー担当記者もいた。

 家長自身はおそらく、タイトな状況での適切な判断力、試合の流れを正確に読み取る予測力といった感覚をクールに研ぎ澄まし、実際のプレーに投影していたことだろう。しかし、プレーの真意を感じ取ることは難しかった。

 家長は17年に川崎Fに移籍したことで天賦の才を開花させた。MF中村憲剛(40)、FW小林悠(33)といった理解しあえる選手とプレーすることでJ1連覇に貢献。18年にはMVPも獲得した。2020年シーズンも、彼がボールを持つと「何か起きるのでは?」と期待させるプレーを披露。Jリーグと天皇杯の2冠獲得に原動力となり、日本代表復帰を望む声も出ている。

 久保自身も<巧い>選手であることに間違いはないが、まだ<怖い>選手になっていない。

 久保がスペインで「怖い」選手として評価を高めていくには、まずはヘタフェで常時プレーし、ゴールやアシストという目に見える結果を残して周囲を納得させることも必要となってくる。

 新天地3戦目となったバスクの強豪ビルバオとの一戦(日本時間26日)に先発した久保は精彩を欠いてしまい、後半24分にベンチに下げられてしまった。試合は1ー5という惨敗に終わり、久保に対する高評価に冷水を浴びせることになった。

 しかし、ここは気持ちをスパッと切り替えて次節・アラベス戦に集中してもらいたい。ヘタフェでの2021年を天才選手だらけのレアル・マドリッド復帰の足掛かりにしてほしい。

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