名球会入り条件「200勝投手」は絶滅危機…巨人・田中将大でもプロ19年で四苦八苦
完投激減の余波
1971(昭和46)年に完全試合を達成した評論家の高橋善正氏は、「僕らの時代の先発投手は、9回完投が当たり前でした」と、こう続ける。
「1試合につき130~150球を投げることがアタマとカラダにインプットされているから、練習でも150球、200球を投げる。なるべく球数を減らすために、制球を磨いたり、変化球を覚えたりする。試合では中盤までは球数を少なくするために、ゴロを打たせて併殺打を取るための工夫をする。新庄監督は先発投手に対して『完投しなきゃいけない』と暗示のようなものをかけ、時間をかけて意識づけをし、投手陣の底上げを図った。今季、伊藤大海が5完投するなど、その考えは先発投手全体に浸透。ソフトバンクと最後まで優勝を争うチームをつくった」
高橋氏は、完投数と勝ち星の関係についてこう話す。
「そもそも完投能力があるベテランの投手が、肩肘を守るために早い回で降りるというならともかく、中堅、若手まで『中6日で100球でOK』となれば、投手自身がそういうアタマとカラダになる。これを変えるのは大変だし、時間もかかる。スタミナをつける練習もおろそかになる。6イニングを投げ終えた時点でバテるし、『あと3イニングも投げないといけないのか……』『早く交代してほしい』と気持ちもなえる。
完投するためには、スタミナはもちろん、四球を減らし、無駄な球数を使ってはいけない。制球力や変化球の精度も大事になる。先発投手はそうやって能力を磨いていくものでしょう。僕なんて、途中で交代されようものなら、最後まで投げ切って自分で白黒をつけたいと思ったものです。リリーフが打たれたら勝ち星は消えますからね。自分で勝利をつかみ取ろうという強い意欲がないと、なかなか勝利数は増えないと思います。
QS(6回以上を自責点3以内)なんてデータも、弊害になっている面はあるでしょう。先発投手の自分の勝ち星に対する意識の低さが200勝達成をより困難にしている。近年、200勝を達成した黒田博樹、ダルビッシュにしても、メジャーではともかく、日本時代は完投を重ねてきた。田中もしかりです。勝利数が多い投手は総じて完投数も多い。投手のレベルが全体的に上がっているとはいっても、本当の意味で自分のチカラで自分の勝ち星を掴み取っている先発は、日本ハムの伊藤、西武の今井達也、阪神の才木浩人など、ごくわずかではないか」
田中の次に200勝達成が期待されるひとりが、ドジャースの山本由伸。プロ9年目で通算88勝(15日現在)を挙げているが、「野茂英雄やダル、田中が9年目までに100勝を達成していたことを考えれば、決して簡単ではないでしょう」とは、前出の高橋氏。
新庄監督の言う「昭和の野球」が復活しない限り、200勝投手は二度と誕生しそうにない。
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侍J投手コーチ歴のある権藤博氏は日刊ゲンダイの連載コラムの中で「日本の先発投手は過保護ではないか」「物足りなさを感じているエースもいるかもしれない」などと、疑問を投げかけてきた。権藤氏はこの現状をどう見ているのか。
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