「動物記」高橋源一郎著

公開日: 更新日:

 人間ではなく「動物」を物語の軸に据えた短編から成る実験的短編小説集。ご老公さまと呼ばれるシカが、スケさんカクさんと称されるタヌキとキツネを率いて森の動物たちの騒動を一件落着に導く「動物の謝肉祭」、結婚5年で不妊に悩むパンダと、キャバクラ通いの夫をもてあますチーターと、子どもを預けて働くことを夫と姑に反対されるカンガルーの物語「家庭の事情」、突然人間が消えた世界に残された犬が言葉を覚えて社会をつくるようになった「そして、いつの日にか」、ある日目を覚ますと人間になっていたオオアリクイの物語「変身」など、計9編が収録されている。

 なかでも、連作として3編書かれた「文章教室1~3」は興味深い。動物に文章を教える教師が主人公という設定で書かれたこれらの短編には、人と異なる動物の視点、動物の寿命に応じた生命観、人間の価値観の外にある世界をなんとか言葉でつかまえようとする試みがある。言葉を持たない動物の視点を軸に据えたからこそ、ナンセンスでユーモラスな小説を超えて、人間の歪みや奇妙さがシニカルに浮かび上がってくる。

(河出書房新社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景