「動物記」高橋源一郎著

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 人間ではなく「動物」を物語の軸に据えた短編から成る実験的短編小説集。ご老公さまと呼ばれるシカが、スケさんカクさんと称されるタヌキとキツネを率いて森の動物たちの騒動を一件落着に導く「動物の謝肉祭」、結婚5年で不妊に悩むパンダと、キャバクラ通いの夫をもてあますチーターと、子どもを預けて働くことを夫と姑に反対されるカンガルーの物語「家庭の事情」、突然人間が消えた世界に残された犬が言葉を覚えて社会をつくるようになった「そして、いつの日にか」、ある日目を覚ますと人間になっていたオオアリクイの物語「変身」など、計9編が収録されている。

 なかでも、連作として3編書かれた「文章教室1~3」は興味深い。動物に文章を教える教師が主人公という設定で書かれたこれらの短編には、人と異なる動物の視点、動物の寿命に応じた生命観、人間の価値観の外にある世界をなんとか言葉でつかまえようとする試みがある。言葉を持たない動物の視点を軸に据えたからこそ、ナンセンスでユーモラスな小説を超えて、人間の歪みや奇妙さがシニカルに浮かび上がってくる。

(河出書房新社 1600円+税)

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