著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「うつけ者の値打ち」辻堂魁著

公開日: 更新日:

 風の市兵衛シリーズの第17作である。シリーズの途中から読むのは無理、と言わずにぜひとも読まれたい。続いているわけではないので、どこから読んでも大丈夫。これが面白ければ遡ればいい。

 主人公の唐木市兵衛は渡り用人である。旗本や小大名の事務会計などの面倒を見る期限付きの財政コンサルタントで、そういう算盤侍になったいきさつは長くなるので省略。とにかくその設定のために、さまざまな問題(財政危機の裏側には問題が隠されていることが多い)を主人公があぶりだすドラマが自然に生まれてくる。

 岡場所をめぐる争いを仲裁してほしいという今回の依頼のように、本来の仕事を離れることも少なくなく、最近では市兵衛、もめ事の相談侍である。

 公儀十人目付の兄片岡信正、その配下の弥陀之介、定町廻り同心の渋井鬼三次など、脇をかためる人物もみな個性的で、これも長く続くシリーズものの特色だろう。しかも読んでいて飽きないのは立派。

 書き下ろしの時代小説文庫は数多く、いったい何を読んでいいものやら門外漢にはわからないことが多いけれど、この辻堂魁の風の市兵衛シリーズは信頼していい。17巻の本書の帯には「シリーズ累計110万部突破」とあるので、読者の人気を集めているものと思われるが、読んでいただければ、それも納得するだろう。ぜひおすすめだ。(祥伝社 640円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルトのドラフトは12球団ワースト…「余裕のなさ」ゆえに冒険せず、好素材を逃した気がする

  2. 2

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  3. 3

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  4. 4

    コメ増産から2カ月で一転、高市内閣の新農相が減産へ180度方針転換…生産者は大混乱

  5. 5

    オリックスまさかのドラフト戦略 「凶作」の高校生総ざらいで"急がば回れ"

  1. 6

    ヤクルト2位 モイセエフ・ニキータ 《生きていくために日本に来ました》父が明かす壮絶半生

  2. 7

    オリ1位・麦谷祐介 暴力被害で高校転校も家族が支えた艱難辛苦 《もう無理》とSOSが来て…

  3. 8

    “代役”白石聖が窮地を救うか? 期待しかないNHK大河ドラマ『豊臣兄弟』に思わぬ落とし穴

  4. 9

    福山雅治は"フジ不適切会合参加"報道でも紅白で白組大トリの可能性も十分…出場を容認するNHKの思惑

  5. 10

    バスタオル一枚の星野監督は鬼の形相でダッシュ、そのまま俺は飛び蹴りを食らった