著者のコラム一覧
佐々木寛

1966年生まれ。専門は、平和研究、現代政治理論。著書(共著)に「市民社会論」「『3・11』後の平和学」「地方自治体の安全保障」など多数。現在、約900キロワットの市民発電所を運営する「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事、参院選新潟選挙区で野党統一候補を勝利に導いた「市民連合@新潟」の共同代表。

「民主主義」をあきらめないために

公開日: 更新日:

「民主主義の内なる敵」ツヴェタン・トドロフ著、大谷尚文訳(みすず書房 4500円+税)

 私たちは今、本当に民主主義的な社会に住んでいるのだろうか?

 本書は、24歳まで「全体主義」のブルガリアで過ごし、そこを逃れて残りの3分の2の人生を「自由の国」フランスで生きた思想家の手によるものである。人間の幸福にとって「自由」や「民主主義」がいかに重要であるか、著者自身が身をもって知っている。

 しかし、「全体主義」に勝利し、この地上でいわば無敵の教義となった「民主主義」は今、本当に私たちを幸福にしているのか。著者の問いかけは根源的である。

 確かに選挙や複数政党制など、制度としての「民主主義」は地球大に広がった。しかし、その「民主主義の衣装」をまとった社会の中身は、著者が「政治的なメシア信仰」「個人の専横」「新自由主義」と呼ぶような重い病に侵されている。そして何よりも深刻なのは、その病が私たちの体制の外側からではなく、今度はまさに私たち自身から生み出されているという事実である。

「自由のある種の使用法は民主主義にとって危険である」。そしてまた、「民主主義は自分自身のうちに民主主義を脅かす諸力を分泌する」のである。

 いわば、慎みを忘れた私たちの「自由」「ヒュブリス(傲慢)」こそが「民主主義の内なる敵」となっている。著者が何度も言及する福島の原発事故もまた、社会的責任よりもすべてにおいて個人的な利益を優先する「新自由主義」の結末であった。

 それではどうすればいいのか。今度の敵は私たち自身である。まずは「民主主義」をあきらめないこと。本書が示唆するように、「民主主義の現実をその理想により近づけること」は可能である。世界と人間の不完全性を引き受けながら、「それでもなお」工夫を凝らし、他者と共に出来る限り非人間化した社会を変革していくことは可能である。

 本書は、現代における「民主主義」の病理に深く迫る。しかしそのことによって逆に、現代における「民主主義の生命力」を回復する手だても指し示している。

【連載】希望の政治学読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」