「日本の城」山下茂樹著

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 4月の熊本地震で変わり果てた熊本城の姿に、多くの日本人が心を痛めた。戦争や天災を耐え、堂々とそびえる城は、地元に住む人はもちろん、すべての日本人にとっての誇りであり、かけがえのないものであることを改めて感じた。

 本書は、全国各地のお城を巡り、撮影を続けてきた著者による写真集。国宝と国の重要文化財に指定されている現存天守12城をはじめとする名城42城を美しい写真で紹介する。

 トップバッターは現存天守12城のひとつである青森県の「弘前城」。続いて、梅雨の合間の青空に映える「会津若松城」(福島県)、そして「江戸城」(東京都)へと南下しながら、それぞれの城の一番の表情を引き出す。

 大河ドラマで人気沸騰の真田氏が築城した「上田城」(長野県)は、桜と紅葉、それぞれの季節の中にたたずむ。そして雪景色の中に凛としてそびえる外観五重内部六階の国宝「松本城」(長野県)など、四季折々の背景が、より一層、城の美しさを際立たせる。

 豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎と名乗っていたときに一夜にして築いたと伝わる「墨俣城」(岐阜県)や、織田信長の居城として、そしてその死後には後継者を決める「清須会議」が行われた城として知られる「清洲城」(愛知県)など、歴史の舞台となった城々は、たとえそれが復元された城であっても、訪ねた人を往時へとタイムトラベルさせてくれる。

 しかし、やはり圧巻は現存天守12城であろう。

 世界遺産にもなっている「姫路城」(兵庫県)や、現存天守をはじめ重要文化財の各櫓、下屋敷の庭園である玄宮園、そして内堀・中堀まで当時のままの姿をとどめる「彦根城」(滋賀県)、現存する日本最古の様式天守である「犬山城」(愛知県)、そして入母屋破風の屋根が羽を広げたように見えるから別名「千鳥城」とも呼ばれる「松江城」(島根県)など、国宝に指定されている城はやはり別格。歴史の重みが積み重なる建物自体が放つ存在感に圧倒される。

 異色は、天空の城として名高い「竹田城」(兵庫県)。天守閣などの建物は一切残っていないが、山城遺跡として全国でもまれな完存する遺構。周囲を見下ろす山の頂に残る石垣にあったはずの在りし日の城の姿を思い浮かべれば、昔の人たちのスケールの大きさに感嘆する。

 そして最後のページを飾るのが震災前の熊本城の雄姿だ。

 失われて初めて知る大切さとはよくいわれるが、在りし日の熊本城を眺めていると、その意味を痛感させられる。ここに登場する城々が、この雄姿のまま、末永く後世に伝わっていくことを願う。(青菁社 1500円+税)


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