「お世話され上手」釈徹宗氏

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 高齢者施設はバリアフリーが当たり前だが、住職である著者が代表を務める「むつみ庵」は、寺の裏手の古民家を活用した、一風変わったグループホームだ。本書では、このむつみ庵の運営を通して著者が学んだという、人が人らしく、そして人と関わり続けながら生きることの意義を説いていく。

「改修をしたとはいえ、むつみ庵は古民家ですから、敷居や畳や土間など段差だらけ。一般的な介護理論では具合の悪い施設です。しかし、だからこそ利用者たちは“気を付けて”日々を送る。スタッフも手を貸しますが、そういう生活が認知症にも良い影響を与え、“暮らす”という感覚や能力が維持されるんです」

 便利な最先端の施設よりも、昔ながらの不合理な住まいの方が普通に暮らし続けられる。人間という生き物の不思議なところだと著者は言う。

 むつみ庵の開所は2003年。お寺の檀家制度というネットワークをフル活用し、スタッフもほとんどが地域の人々だ。

「すでにリタイアしていた医師や、かつて福祉に関わっていた人たちなどが協力してくれています。古民家の再利用だけでなく、地域に眠っていたさまざまな“社会資源”の掘り起こしにもつながった形です」

 施設の運営を始めてから、著者は“お世話され上手”な人がいることを知ったという。それは、我が身を人に委ね、お任せし、上手に迷惑をかけることのできるお年寄りたちだ。彼らがいると、共同生活のムードもよくなり、周りの人も自然に手を差し伸べたくなる。

「地域共同体が生活の基盤だったその昔は、迷惑をかけたりかけられたりしながら暮らすことは当たり前でした。今でも、田舎ほどそのような暮らし方が残っています。煩わしさもありますが、コミュニケーションスキルも上がり、お世話され上手も増えていきます」

 一方、このような煩わしさとは対極にあるのが、都市生活だ。迷惑をかけない限り、干渉されないのがルールであり、そうした暮らし方を目指してきたのが現代社会でもある。

「“お世話”というサービスを購入すれば、消費活動になり迷惑をかけることにはならないという考えもあるでしょう。しかし、高齢化が加速する日本において、果たして消費体質のままでいられるのか。迷惑をかけないという生き方は美徳とも言える一方、ある種の傲慢でもあると私は考えています」

“お世話され下手”の人はこだわりが強く、男性に多いという。かく言う著者も、かつてはコミュニケーションが苦手なお世話され下手だったそうだ。

「人との関わりを見直す中で、私はひとりで“巻き込まれキャンペーン”という活動をしていたことがあります。これは、人でも物事でも、出会いのすべてに首を突っ込んで積極的に巻き込まれ、断らないこと。むつみ庵もこのキャンペーン中の出会いから始まったことでした。お世話され下手の人には、ぜひお勧めです。人や社会に対する見方、そして地域との関わりも変わり、お世話され上手な人に生まれ変わることができるかもしれません」(ミシマ社 1600円+税)

▽しゃく・てっしゅう 1961年生まれ。宗教学者・浄土真宗本願寺派如来寺住職。大阪府立大学大学院人間文化研究科比較文化専攻博士課程修了。兵庫大学生涯福祉学部教授を経て、相愛大学人文学部教授に就任。著書に「法然親鸞一遍」「いきなりはじめる仏教生活」「現代霊性論」など多数。

【連載】著者インタビュー

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