著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

直したつもりでも直ってない

公開日: 更新日:

「ヨーコさんの“言葉”わけがわからん」佐野洋子著、北村裕花絵 講談社 1300円+税

 モズクのようにドロドロ絡み合った男女関係、切りたくても切れないネバネバ納豆親子、ワサビたっぷりの寿司のごとく外からは分からぬがツンと涙が出る夫婦生活。科学で解明できない人間関係の不思議をシニカルな視点で書いたエッセー「ヨーコさんの“言葉”わけがわからん」が実に味わい深い。

 ベストセラーの絵本「100万回生きたねこ」の著者として知られた佐野洋子さんは、震災の前年に亡くなっているから、本書は再編集されたものだが、その言葉は古くなるどころか今の時代に、私自身にもピタリと当てはまる。

「(反抗期に)あんな親には決してなるまい、と固く決意するのである。親のふりを見て我がふりを直すのである。直したつもりになるのですね。しかし、これは直らない」

 そんなことはない。化粧っ気がなく頑固で愚痴の多い母のようになるまいと私は努力してきたはず……だが、鏡には小鳥が飛んできて巣作りを始めそうなボサボサの頭をした私が映っている。

 いや待て、愚痴は母ほど多くはない。なぜなら愚痴を言い合える親しい友達がほとんどいないからだ。

 おっと大丈夫か、自分。まあ顔が売りのモデルでも接客業でもないから八方美人の必要はないし……って頑固な上に言い訳がましい負の性格がプラスされていることに気が付き、ハッとする。

 読み進めながら「そうそう」と相づちを打ちつつ、改めて自分の人生を見つめ直す機会となった。

「父が嫌い。変わり者でさ」とぼやく友人がいたが、その本人も光るシイタケ柄のTシャツを着て出社してた。私と一緒で本人が一番、気が付けないものだ。今度の誕生日にこの本をプレゼントしてみようか。きっと笑って父上を許せるかもしれない。

 あと2年――死の宣告をされた洋子さんは、「人生が急に充実してきた。毎日がとても楽しくて仕方がない。死ぬとわかるのは自由の獲得と同じだと思う」と喜ぶ。

「こういう見方もあるのか」と、人生が楽になるヒントがたくさん詰まった本である。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    長瀬智也が国分太一の会見めぐりSNSに“意味深”投稿連発…芸能界への未練と役者復帰の“匂わせ”

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  3. 8

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  4. 9

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  5. 10

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…