著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

英国人は食事がまずくても平気な理由がわかった!

公開日: 更新日:

「料理でわかるヨーロッパ各国気質」片野優、須貝典子著/実務教育出版 1500円+税

 スリッパのような弾力の強情ステーキ、砂漠に置き去りにされた気分になる塩スープ、丸1日煮込んだのではないかと思われる泥パスタ……東アフリカの国々で出される投げやりな料理の数々。自分で作ったほうがましだとホテルで自炊を始めた私を横目に、欧米人は平気な顔をして外食へ。ひとり残った英国女子に「ユーは行かないの?」と聞いたら、「香港返還までマレーシア人コックの食事で育った私に英国は地獄! お願い、食事に交ぜてくれない?」と訴えるのだ。

 東アフリカが揃いも揃ってまずいのは元英国領だからだと思う。なぜならウガンダから元仏領のルワンダへ国境を一歩またいだだけで、卵焼きさえも格段にうまい。ベトナムのフランスパン、日本統治時代に生まれた台南料理など占領の歴史は悲しいが、美食同士ならおいしさはパワーアップする。もし英国が日本を攻めてきたら大変だ。私もフライパンを武器に全力で戦うだろう。

 ところで、なぜ英国人はまずくても平気なのか? という疑問に、さまざまな視点から答えてくれるのが本書である。味がなくなるまで加熱するのは病気がはやったからであり、ファストフードが台頭したのは産業革命の忙しさから。

 そして成り金になった中流階級がコックを雇おうにも人材不足。未熟な召し使いの若者に料理を作らせるも味は諦めざるを得ない。では上流階級が美食三昧であったかというとこれまた違う。厳しいパブリック・スクールに入れられた子息は寮の質素な食事に慣らされる。

 ゆえに食事が簡素でも我慢できる英国人だからこそ、植民地を拡大できたのだろう。その国の歴史や地理、性格、民族など複雑に絡み合って味が決定するおもしろさ。ほかにも、なぜドイツ人はジャガイモが好きなのか、トルコ料理が世界3大料理になった理由など興味深い話ばかり。1話ずつ味わうように読める一冊だ。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言