理想の肉体美の女性と図書館で同棲

公開日: 更新日:

「愛のゆくえ」リチャード・ブローティガン著、木日出夫訳 ハヤカワepi文庫 760円+税

【話題】誰も本を調べには来ないし、誰も本を読みには来ない――そんな風変わりな図書館を舞台にしたのが、ブローティガンの小説の中で最も長い(といっても、文庫版で240ページほどだが)この作品である。

【あらすじ】サンフランシスコにあるこの図書館は通常の図書館ではなく、自分が書いた本をこの図書館に持ち込み、図書館明細元帳に登録した上で、棚におさめるという役割を果たしている。

 主人公の31歳の「わたし」は35人目か36人目かの図書館員で、この3年間、図書館の外へ一歩も出ずに24時間、ひたすら本を受け付けている。持ち込まれる本は実に雑多。5歳の男の子が描いた絵だけの「ぼくの三輪車」、革フェチのオートバイライダーの「革と衣服と人類の歴史」、一度もキスされたことのないような主婦の「彼は夜どおしキスをした」……。

 そうした中、「今世紀の西洋の男が女性はこうあってほしいと願う極限の状態までに発達した」プロポーションを誇る若い女性ヴァイダが本を持ち込んできた。彼女は幼い頃から男という男が自分に触れたがり、そんな自分の肉体を嫌悪して、そのことを書いたのだという。その話を聞くうちに2人は意気投合し、その日から図書館で同棲を始める。そしてヴァイダが妊娠すると、2人にはまだ子供は早いと、堕胎するために、メキシコへ行くことに。3年ぶりに外の世界を目にした「わたし」は図書館には戻らずに……。

【読みどころ】原題は「妊娠中絶――歴史的ロマンス一九六六年」。外へ出た図書館員が遭遇するのは60年代後半の騒然たる混迷の時代だが、その後彼はどう生きたのだろうか。作者のブローティガンは84年に自死を遂げたのだが。〈石〉

【連載】文庫で読む 図書館をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?