「フォークロアの鍵」川瀬七緒著
民俗学の口頭伝承を研究している大学院生の千夏は、文書に残っていない文化を探り出すために、認知症の人の記憶の中にある最後まで残った言葉を聞き出そうと思い立ち、グループホーム「風の里」を訪れた。職員に迷惑がられながらも、話し相手のボランティアのような立場を与えられた千夏が気になったのは、夕暮れ時になると決まってホームから脱走を図ろうとするルリ子という老女。
ルリ子の口から発せられた「おろんくち」という言葉を手がかりに、彼女の中にある世界を探り始めたのだが……。
「よろずのことに気をつけよ」で第57回江戸川乱歩賞を受賞してデビューし、「法医昆虫学捜査官シリーズ」で大人気の作家による、深層心理の世界をテーマにしたミステリー。
認知症の人の言葉を聞き出そうと真剣に彼らと向き合う主人公が、ホームの老人たちや調査の良き相棒となる悩みを抱えた高校生・大地を巻き込み、彼らに変化をもたらしていく様子が興味深い。(講談社 1500円+税)