郊外再生のキーワード「ウオーカブル+ワーカブル」

公開日: 更新日:

 日本では近年、ほとんどすべての道府県で人口が減少しており、増えているのは東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県など8都県のみ。増えているとはいえ、東京周辺の3県でも増加率は1%以下である。そして、東京都では2010年から15年までの間で、人口が35.6万人も増加しているが、内訳を見てみると23区だけで32.7万人増えているのだ。

 このままいけば、東京郊外の人口減少や高齢化は加速するばかりだ。三浦展著「東京郊外の生存競争が始まった!」(光文社 840円+税)では、一極化する都市の現状を明らかにしながら、これからの生き方・働き方にスポットを当てた郊外再生の道を探っていく。

 生産年齢人口(15~64歳)に着目すると、埼玉・千葉・神奈川ではこの5年間で10万人以上も減少している。バブル期に開発された、都心から40キロ以遠の地域で特に顕著であり、そこで生まれ育った郊外2世たちが、長時間通勤を嫌い、より便利な商業環境を求めるなどの理由から、当該地域から流出し続けていることが原因とされている。

 これらの地域は、専業主婦の妻が風呂を沸かして夕飯を作り、夫を待っていてくれる家庭なら暮らしやすいかもしれない。しかし、共働きが増えている現代の夫婦には到底適さない。都市的機能を都心にすっかり任せて、食べて、寝て、子育てをするだけの街づくりをしてしまった。これが戦後の郊外の弱点であり、持続可能性を持てなかった大きな要因であると著者。

 今後、生産人口を呼び戻すには、郊外に「働く」という機能を付加し、単なるベッドタウンではない状態に変えていく必要がある。自然の豊かな郊外で、昼間に働く人がたくさんいる環境を整えるのだ。その鍵を握るのが、在宅勤務やサテライトオフィスという形。ネット環境が整った今、働き方改革は行いやすくなっている。これからは、「ウオーカブル+ワーカブル(歩いて楽しい+働いて楽しい)」をキーワードに郊外再生を行うべきであり、働く人の息抜きのためのコミュニティーバーなど、郊外の個性に応じた夜の遊び場もつくれば、住民の連携にも一役買うと本書は提案している。

 これからの郊外の街づくりを考えるヒントになりそうだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方