「中国はなぜ軍拡を続けるのか」阿南友亮著
現在、中国の国防費の総額は米国に次いで世界第2位の規模にある。その軍事力を背景にした東シナ海や南シナ海での海洋権益の拡大は日本などの近隣諸国や米欧諸国に脅威を与えている。本書は中国が軍拡を推進するに至った政治的背景と経緯、軍拡の諸問題、そして軍拡の日中関係への影響について論じたもの。
重要なのは、中国の軍隊=人民解放軍は実質的にも制度的にも共産党直属の軍隊で、国家に属するものではないということで、これが問題を解く鍵ともなる。
端的に言えば、軍拡の要因は共産党をめぐる内憂外患にある。「内憂」は圧倒的な貧富の拡大により生じる党中央への不満で、それを軍事力で抑え付け、不満の矛先を排外的なナショナリズムの発揚で外に向けさせる。排外的プロパガンダがアジア・太平洋地域の緊張を高め、結果的に「外患」を招く――というジレンマに陥っているのが中国の現状だ。
この軍拡路線を継続する方向の習近平の権力強化が明確になった今、必読の書。
(新潮社 1500円+税)