「単身高齢者のリアル──老後ひとりの住宅問題」葛西リサ著/ちくま新書(選者:稲垣えみ子)

公開日: 更新日:

世直しレベルの大改革でだれもが直面する悲劇を防げ

「単身高齢者のリアル──老後ひとりの住宅問題」葛西リサ著

 最近何がショックだったって、我がマンションの家賃値上げ。何と2割アップ! 築60年を超えるので何なら下げてもらえるんじゃくらいに思っていたから全くの想定外だった。値上げ理由は要するにインフレで、そんなこと言い出したらこれから先どんどん上がってもおかしくない。気に入っていた物件なので長く住み続けるつもりしかなかったが、甘かった。有事に備え日頃から転居先をリサーチしておくべきかもしれない。

 ってことで、この本を読む。単身高齢者は家を借りにくいと聞く。61歳独身の自分も人ごとではなく、実態を知っておくべきと思ったのだ。

 で、震え上がりましたよ。人ごとではないどころかすでに私、やばいかも! 本書には50代でも家が借りられず途方にくれる単身者がゴロゴロ登場する。ってことは私、今の家を出たらたちまち路頭……?

 むろんこれは私だけの問題ではない。超高齢化で単身高齢者は900万人を超え、うち3人に1人が賃貸住宅で暮らす。なのにその大量の人々が家を借りられないって、どう考えてもデカ過ぎる社会問題でしょ。政治は何してるわけ? こんな国に住んでいることに今さら焦る。ちなみにこれは低所得者の話ではない。貸し手がいない理由は認知症リスク、孤独死リスクだからだ。

 本書を読むと、問題の本質は、日本の住宅政策が経済任せなことにあることがよくわかる。戦後の住宅不足の中、国は公的住宅の整備よりも、国民自らがローンを組み家を買って経済を成長させるという安上がりな方法を後押しした。だがそれが「終の住処」となり得たのは女性による無償ケア労働が前提で、経済成長が止まり働き方が多様化し共働きが当然になるとケアの担い手は消え、自力で生きねばならなくなった単身高齢者の群れが出現したのである。だが最後までケアを受けず自力で生きられる人などいない。そんな人に家を貸すリスク満載の行為を市場任せにしてどうなるかは自明だろう。

 国はハイテク機器による監視で孤独死リスクを減らし高齢者に家を貸す業者を増やそうとしているらしいが、機械で防げるのは孤独死だけで、肝心なのはそれに至るまでの悲劇、すなわち人生の最後につながりもケアも失い生活が崩壊するのを防ぐ取り組みだという筆者の問題意識に全く共感する。だがそのためには世直しレベルの大改革が必要で、しかし誰もが直面する問題だからこそこれは世直しの一大好機かもしれない。心ある不動産業者らがつながりや助け合いを組み込んだ新たな事業を模索する事例が参考になる。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    打線強化急務の巨人が今オフ、トレード獲得に舌なめずりする日本ハム2選手の名前

  2. 2

    日本ハム助っ人レイエスに「70万ドル請求訴訟」 タティスJr.も敗れた“収入10%契約”の落とし穴

  3. 3

    日テレが“打倒 VIVANT”へ総力をかけて挑むドラマ「俺たちの箱根駅伝」の勝算

  4. 4

    経済閣僚から相次ぐ「高市総理はリフレじゃない!」の無責任…にじむのは露骨な米国への配慮

  5. 5

    何ら新味なかった高市改造人事で期待できるとすれば、勢いづいた藤田維新の“大暴れ”くらいか?

  1. 6

    歌番組を見ながら紅白を考えた…来春メンバーが2人になる純烈が気になる

  2. 7

    維新から入閣の中司宏新大臣に案の定「裏金疑惑」…高市内閣は支持率20ポイント暴落もある

  3. 8

    川島道行さんは闘病19年 脳腫瘍グレード2で5年生存率は7割

  4. 9

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  5. 10

    WEST.“史上最悪の空中分解”で前途暗雲…10年前のSMAP解散時を超える衝撃