100年前に生まれたグランドピアノがつなぐ人間の無念と希望の物語「白と黒のソナタ」宇佐美まこと氏

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「白と黒のソナタ」宇佐美まこと著

 大正時代から現在にわたる100年の時の流れの中で、戦争や身分、病などあらがうことのできない運命と対峙する人々を描く壮大な人間ドラマ。そして一見バラバラの出来事を結ぶのが、一台のグランドピアノだ。

「ホラーやミステリー、ファンタジーなどさまざまなジャンルの物語を執筆してきましたが、私が描きたいのはいつも人間なんです。今回は、中心に何か“モノ”を据えて、それにかかわる人間の営みをいくつもの時代を超えて描いてみたいと思いました」

 最初の時間軸は現代。新進気鋭のピアニストである友澤伸多は、コンサートを控えたある日老齢の調律師と出会い、その技術に衝撃を受ける。一方で、ピアニストとしての輝かしい未来に暗い影が忍び寄っていることには、まだ気づかずにいた。

「物語の核となる“モノ”は、宝石でも人形でも何でもよかったんです。でも、楽器はどうだろうと考えたときに、真っ先に浮かんだのがピアノでした。オーケストラのすべての楽器をカバーする音域を持つ特徴もさることながら、調律師という存在が独特で、音程を合わせるだけでなく響きや音色などを含めた“音づくり”にまで関わる。ひとつの曲を奏でるために、演奏者以外の手が入るという点に惹かれました」

 時はさかのぼり、舞台は大正時代のイギリス。駐英大使となった平松伯爵の奉公人として同行した14歳の喜三郎は、伯爵令嬢である随子の弾くピアノの音色に心を奪われる。その姿を見た伯爵は、ロンドンの工房で本格的なピアノづくりを学ぶ機会を喜三郎に与える。

 さらに随子のピアノ教師として、新進気鋭のオーストリア人ピアニストであるアッカーを招き、彼のために至高のピアノ「ニーマイヤー」を特注する。しかし、時代はアッカーと、彼にほのかな恋心を抱く随子を残酷な運命へと導いていく。

「本作の題名にある“白と黒”は、もちろんピアノの鍵盤を指していますが、同時に“光と闇”や“希望と絶望”など相反するものもイメージしています。人生はどちらか一方だけが続くということはなく、翻弄されながらも人間はさまざまに影響し合いながら生き抜く。その姿がピアノという楽器と重なりました」

 いつしか“呪いのピアノ”と囁かれるようになった「ニーマイヤー」は、日本の山村で家父長制がもたらす悲劇に寄り添い、表舞台から姿を消す。しかし、演奏者と調律師によって“狂い”は幾度も整えられ、時代を超えて存在し続ける。同じように、100年前の人々の無念と渇望が、絶望の淵に立たされた現代のピアニストを導く光となって現れる。そのつながりを知るのは、物言わぬピアノと、読者のみだ。

「人間は不完全で脆くて狡く、けれどしなやかで優しくて手ごわくて、本当に面白い。私の強みは長い人生経験とたくさんの人を見てきたことだと思っているので、これからも人間のいろいろな側面を描いていきたいですね」

 過酷な人生の闇が、ありのままに手渡される作品である。しかし同時に、“調律”され受け継がれるかすかな光も温かく心にともる。その余韻を味わって欲しい。 (祥伝社 2200円)



▽うさみ・まこと 1957年愛媛県生まれ。2006年「るんびにの子供」で「幽」怪談文学賞短編部門大賞受賞。17年「愚者の毒」で日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞。20年「展望塔のラプンツェル」で山本周五郎賞候補、24年「誰かがジョーカーをひく」で大藪春彦賞候補。「熟れた月」「骨を弔う」「羊は安らかに草を食み」など著書多数。

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