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俳句がもっと楽しくなる本特集

「寝る前に読む一句、二句。」夏井いつき、ローゼン千津著

 わずか17文字の中に思いや情景を込める。シンプルでありながら奥深い俳句の世界は、いざ足を踏み入れるとなかなかいい句が詠めずに行き詰まってしまうこともある。そこで今回は俳句の教本ではなく、俳句とショートショートのコラボや俳句のイラスト化、そして地域限定の季語研究本など、角度を変えて俳句の魅力を味わう5冊を紹介する。

 TBS系の人気番組「プレバト!!」で芸能人の俳句を切り捨てる毒舌先生としてお馴染みの著者が、俳人であり英語と日本語の句集も上梓している妹と共に名句を語り合う。

 姉妹でファンだという高浜虚子の次女・星野立子が詠んだのは、「いつの間にがらりと涼しチヨコレート」。ついこの間まで、チョコレートを口に入れたら即座に甘さが広がったものだが、今日はひんやりと冷たくなかなか溶けない。あぁ、涼しくなってきたのだ、もうすぐ秋だ。という感覚が詠まれている。

「がらりと涼し」でその場の空気感が伝わる、観察眼が細かくて鋭い句だという姉に対し、妹も俳句を始めてから観察眼が鋭くなったと答える。近所の“あら探しおばちゃん”のように周囲を観察する癖がついたそうだ。

 とはいえ、単なるあら探しではなく、嫌な仕事もウザい上司も、優しい目で観察して愛すべき瞬間を見つけるよう努力すると、俳句にも個性が生まれるそうだ。時には姉妹ならではの毒舌も交えつつ語られる言葉から、俳句のコツが分かってくる。

 (ワニブックス 1300円+税)

「季語体系の背景 地貌季語探訪」宮坂静生著

 季語とは、俳句などに用いられる特定の季節を表す言葉。冬の「霜」や春の「蒲公英」などは誰もが知るところだ。しかし、季語の中にはその土地独特の貌を映し出した言葉もあり、著者はそれらを「地貌季語」と呼び長年にわたり発掘に努めてきた。本書では、地貌季語が用いられている各地を訪ね、その奥深さをひもといている。

「うらにしや小豆搗(か)たねば雪がくる」(野口悟)は、京都の丹後で行われた文芸祭で特選に選ばれた俳句。地貌季語は「うらにし」だ。初冬の丹後には北西の強い季節風が吹く。これを丹後では「うらにし」と呼び、冬に向かう丹後の暮らしをありありと表現する地貌季語として根付いている。掲句の意味は明快で、うらにしが吹き出したので早く小豆を収穫しないと雪が来て畑仕事ができなくなるぞ、というわけだ。

 丹後を訪ねてうらにしに吹かれた著者は、地貌季語に触れることが日本語や日本文化をより広く、深く理解することにつながると思いを新たにする。地貌季語から、俳句のおもしろさをまたひとつ教えられる。

 (岩波書店 3700円+税)

「春夏秋冬 猫うらら」安藤香子絵、新堀邦司選句

 猫好きにはたまらない俳句集。猫が詠まれた名句に、資生堂フレグランスなど上品なパッケージを手掛けてきたイラストレーターが、40枚の美しい絵を添えている。

「紅梅や縁にほしたる洗ひ猫」は小林一茶の句。長い冬が明け、梅が咲き始めた暖かなある日。家の住人は洗濯日和とばかりに家事に精を出し、ついでに冬の間に毛並みが汚れてしまった猫もすっかり洗い清められ、日差しに満ちた縁側に置かれている。美しく咲き誇る紅梅とは対照的に、洗われて不機嫌な猫がせっせと毛づくろいする絵が何ともほほ笑ましい。

 正岡子規の句「猫老て鼠もとらず置炬燵」のページには、ザルの上の野菜をかじる鼠の向こうで、猫が丸くなり眠っている絵が載っている。若い頃には鼠取りに大活躍した猫も、年老いた今では置き炬燵の上で居眠りばかり。しかし、かつての働きに感謝して、そっと寝かせたままにしてあげようという優しさに満ちた風景が描かれている。

 それぞれの俳句には、選句者による寸評とともに英訳も添えられている。海外へのお土産にも喜ばれそうな美しい俳句集だ。

 (里文出版 1800円+税)

「俳句でつくる小説工房」堀本裕樹、田丸雅智著

 一般公募の俳句を厳選し、その俳句をもとにショートショートを描くという画期的な試みをまとめた本書。

「静けさや別れの皿のさくらんぼ」。別れの日、ふたりの間にさくらんぼの盛られた皿がある。しかし、どちらも手を付けることはなく、さくらんぼの艶々と明るい存在感がかえってふたりの溝を際立たせる。

 そんな俳句を題材にしたショートショートでは、新婚旅行から帰ったばかりの若い夫婦が主人公。旅行先で立ち寄った「桜桃神社」は縁結びの御利益があり、絵馬をさくらんぼのご神木に結びつけるとふたつペアで実がなる。それをふたりで食べて絆を深めようと思っていた。

 ところが、神社から届いたさくらんぼは、何とひと房に3つの実が付いている。お互いに浮気を疑い、ののしり合う新婚夫婦。しかし、ふたりはふと気づき、妻のお腹に手を当てる。先ほどまでは疎ましかった3つ目のさくらんぼが、打って変わって宝物のように見えてきて……。

 世界一短い詩と世界一短い小説のコラボに、想像力を刺激する日本語の面白さを見せつけられる。

 (双葉社 1400円+税)

「平和の俳句」金子兜太、いとうせいこう選句

 2015年1月1日から東京新聞などで始まった「平和の俳句」。読者投稿の俳句が朝刊1面に毎日1句掲載され、胸に迫りくる句や思わず笑みがこぼれる句など、バラエティー豊かに平和が詠まれている。本書は、戦後70年にあたる15年に掲載された352句の書籍化だ。

「平和とは一杯の飯初日の出」と詠んだのは、18歳の青年。毎日の食事への感謝が込められ、ささやかな満足なくしては国の平和などないことが伝わってくる。72歳の男性による「九条を知らずに眠る凍土の父」には、九条さえあれば、という無念が感じられる。シベリア抑留で無残に死んだ自分の父親に恥じないためにも、平和を守りたいという思いが込められているようだ。

「平和の俳句」には厳しい決まりごとはない。そのため、季語などにとらわれない自由な俳句も多い。76歳女性による「映像のドラマの兵士は肥えている」、63歳男性による「うたた寝の妻の涎に見る平和」なども一見ユニークだが、戦争の悲惨さ、そして平和の尊さを訴えてくる。

 声に出して読みたい俳句集だ。

 (小学館 1000円+税)

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