食べることで立ち直っていく人々

公開日: 更新日:

「東京すみっこごはん」成田名璃子著/光文社文庫620円+税

 本書に登場するある母親がよちよち歩きの娘に語りかける。「きちんと食べなさい。どんなときでも、おいしいごはんを食べなさい。食べてさえいれば、何とかなるんだからね」。どんなにうちのめされていても、お腹がすいてきたらしめたもの。本書には、食べることによって立ち直っていく人たちのすがすがしい姿が描かれている。

【あらすじ】
メイン通りから外れた狭い横道にある「すみっこごはん」は、年齢も職業も異なる人々が集まり、手作りの料理を共に食べる共同台所。誰でも参加自由だが、クジに当たった人はレシピノートから好きなメニューを選んで料理を作らなければならないなど、いくつかのルールが定められている。

 偶然、参加することになった女子高生の楓は、学校でいじめを受けていた。2人暮らしの祖父とも心がすれ違うようになり追い詰められていたときに出会ったのが「すみっこごはん」に集まる人たちだった。料理などしたことのなかった楓に、出汁から始まって味噌汁の作り方を丁寧に教えてくれる。見よう見まねで味噌汁に挑戦していくうちに、楓のささくれ立った心は少しずつ穏やかになっていく。

 その他、婚活に励むが空回りするばかりのOLの奈央、日本という国を好きになれないタイ人留学生のジェップ、妻に秘密を抱えているアラ還区役所員の丸山、皆この「すみっこごはん」にいることで癒やされていた。

【読みどころ】
ところが、ここを立ち上げたのが誰なのか、また懇切丁寧なレシピノートを書いた人物について、メンバーのいずれも知らない。最後、その秘密が明かされるのだが、それもまた「食べる」ということの根源的な意味を教えてくれる。現在、シリーズとして全3作が刊行されている。    
<石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・大山悠輔「5年20億円」超破格厚遇が招く不幸…これで活躍できなきゃ孤立無援の崖っぷち

  2. 2

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  3. 3

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  4. 4

    W杯最終予選で「一強」状態 森保ジャパン1月アジア杯ベスト8敗退からナニが変わったのか?

  5. 5

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  1. 6

    指が変形する「へバーデン結節」は最新治療で進行を食い止める

  2. 7

    ジョン・レノン(5)ジョンを意識した出で立ちで沢田研二を取材すると「どっちが芸能人?」と会員限定記事

  3. 8

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 9

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  5. 10

    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も