“絶滅危惧種の量産”という人間の欲と矛盾

公開日: 更新日:

 絶滅危惧種保護法により、アメリカに持ち込むことは禁止されているにもかかわらず、実際には全米で盛んに売買されている生き物がいる。それは、アジアアロワナだ。

 体長は60~90センチ。キラキラしたうろこに覆われ、下顎にある長い2本のヒゲと体側に伸びた透き通った胸うろこが、空飛ぶ竜を連想させる。野生ではほとんど姿を消してしまったのに、養殖場では毎年、数十万匹が育てられ出荷されるという矛盾を抱えた生き物だ。国際的な観賞魚コンテストでは、3000万円近くの値が付いたこともあるという。

 エミリー・ボイト著、矢沢聖子訳「絶滅危惧種ビジネス」(原書房 2200円)は、アジアアロワナに対する人間たちの熱狂と、その闇を追ったルポルタージュだ。

 この魚の歴史は、近年の野生生物保護の歴史を物語るものといっても過言ではない。アジアアロワナは東南アジアの川や湖に分布し、野生で生息できる範囲はベトナム南部、カンボジア、タイ、そしてボルネオ島などに及ぶ。1964年、国際自然保護連合(IUCN)が淡水魚の生息調査を開始。アジアアロワナの数が減少しているという報告を受け、絶滅の恐れがある野生生物を記したレッドデータブックに追加した。

 これを受けてワシントン条約は、原則として国際取引を禁止した。しかし、アジアアロワナは現地ではごくありふれた食用魚であり、何より国際取引もほとんど行われてはいなかったという。にもかかわらず、国際取引の禁止が知れ渡ったことで、逆に珍しい魚だと注目されるようになってしまった。野生種の乱獲が始まり、観賞魚としての市場も生まれ、結果として価値が吊り上がったわけだ。

 80年代半ばになると闇取引が盛んになる一方、野生種激減に伴い東南アジアの各地で養殖も盛んになった。90年にワシントン条約は規制を一段階緩め、養殖されたものに限っての国際取引を認めた。合法取引を認めることで違法取引を防止しようとしたのだ。しかし、時すでに遅し。密猟された野生種が養殖魚として取引される道をつくっただけだった。

 フィッシュマフィアによる誘拐や殺人事件まで起きているアジアアロワナの市場。自然保護を阻む人間の欲の深さを見せつけられる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する