著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「Team383」中澤日菜子著

公開日: 更新日:

「ママチャリ・グランプリ」は富士スピードウェイで実際に行われているレースである。そのレースをモデルにしたのが本書。ひとチーム5~10人の構成で、1台のママチャリを使って8時間乗り続けるというものだ。いわば、ママチャリの駅伝である。

 そこに出場する素人集団「チーム383」の面々が本書の主人公。これは5人の年齢の合計数であり、つまり平均年齢が76.6歳であるということだ。大丈夫かレースに出て。

 そういう年齢の面々であるから、レース以前にさまざまな問題がある。50年間も秘めていた老妻の思いに初めて気がつくメンバーもいれば、死んだ夫をずっと忘れられない妻もいる。そういうドラマが次々に描かれていく。最後の1編だけはやりすぎの感がなくもないが、これはご愛嬌。

 この連作集を貫くテーマは、人生でいちばん大切なのは友だ、ということである。友さえいれば、後期高齢者でも、体にガタがきても、人生は結構楽しい。その真実がここにある。「チーム383」はママチャリレースに出場するために結成されたが、実は、残りの人生を楽しく生きるために結成されたのである。

 メンバーの1人が運転免許を返納するシーンから本書は始まるが、その寂しさから充足感あふれるラストへの変化こそがキモ。友人の少ない者がこれを読むと、羨ましくなる。こんな老後もいいなという気になってくる。(新潮社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  3. 3

    年収1億円の大人気コスプレーヤーえなこが“9年間自分を支えてくれた存在”をたった4文字で表現

  4. 4

    浜田省吾の父親が「生き地獄」の広島に向ったA.A.B.から80年

  5. 5

    山尾志桜里氏は出馬会見翌日に公認取り消し…今井絵理子、生稲晃子…“芸能界出身”女性政治家の醜聞と凄まじい嫌われぶり

  1. 6

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  2. 7

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題?

  4. 9

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 10

    フジ親会社・金光修前社長の呆れた二枚舌…会長職辞退も「有酬アドバイザー」就任の不可解