著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ピラミッド」ヘニング・マンケル著 柳沢由実子訳

公開日: 更新日:

 刑事ヴァランダー・シリーズの第10弾だが、これまでの作品を未読の方にぜひおすすめしたい。

 スウェーデンの警察小説としては、1960年代のスウェーデン社会を描いたマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーのマルティン・ベック・シリーズが有名だが、激動の1990年代を背景にしたこの刑事ヴァランダー・シリーズはその名作に匹敵するシリーズといっていい。しかしすでに9作まで翻訳されているシリーズを最初から読むのは大変だ。そういうときに、本書は最適の入門書になるだろう。というのは、これは若き日のヴァランダーを描いた番外編だからだ。

 5編を収録した作品集だが、そのうち2編が20代のヴァランダーを描いている。特に、冒頭の「ナイフの一突き」は、巡査部に勤務してデモ隊を取り締まる仕事に(この短編の時代背景が1969年であることに注意)鬱屈している22歳のときだ。刑事部に移りたくて焦っている若きヴァランダーの必死の捜査が描かれるのだが、いつも感情が先走るこの男の性格は、若いときから変わっていないことを知ることができて感慨深い。

 2015年の著者の死によってシリーズの続刊を読むことがもうできなくなってしまったのは残念だが、未訳作品がまだ2作残っている。この作品集を読みながら、それが翻訳されることを待ちたい。北欧ミステリーの凄みが、ここにある。(東京創元社 1400円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず