著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 徴産制とは、日本国籍を有する満18歳以上、31歳に満たない男子すべてに、最大24カ月間「女」になる義務を課す制度である。2092年、国民投票により可決されて本書が始まっていく。

 なぜこの制度が始まったかというと、女性のみ発症する悪性インフルエンザ(しかも若年層ほど死亡率が高い)が大流行し、10代女性の9割、20代女性の8割が日本から消えたからである。ほぼ同時に、画期的な性転換技術の開発に成功し、可逆的に性別を変えることが可能になったのも、徴産制を生み出すきっかけとなった。

 日本民族を守るためには男が女の代わりに出産することが必要だ、というわけなのである。国民的アイドルグループのリーダーがいち早く性転換し、人工授精で出産し、我が子を抱きながらインタビューに答える映像がネットで発信され、その「新時代」が始まっていく。

 性転換とはいっても、ブサイクな男が美女になるわけではなく、デカくてブサイクな男はそのままデカくてブサイクな女になるだけだったり、農村は中国企業が経営する巨大農場で占められ、日本人は雇われていたりするなど、そういう小ネタがあちこちにあるのもいい。

 物語は、5人の男の場合を描いていくが、そういう時代になったらどんなドラマが生じるのか、どんどん引き込まれていく。

 男女が逆転する世界を描いた村田基著「フェミニズムの帝国」を想起する傑作だ。

  (新潮社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  3. 3

    前田健太は巨人入りが最有力か…古巣広島は早期撤退、「夫人の意向」と「本拠地の相性」がカギ

  4. 4

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  5. 5

    来春WBCは日本人メジャー選手壊滅危機…ダル出場絶望、大谷&山本は参加不透明で“スカスカ侍J”に現実味

  1. 6

    詞と曲の革命児が出会った岩崎宏美という奇跡の突然変異種

  2. 7

    高市政権にも「政治とカネ」大噴出…林総務相と城内経済財政相が“文春砲”被弾でもう立ち往生

  3. 8

    「もう野球やめたる!」…俺は高卒1年目の森野将彦に“泣かされた”

  4. 9

    連立与党の維新が迫られる“踏み絵”…企業・団体献金「規制強化」公明・国民案に立憲も協力

  5. 10

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋