「暗殺者の潜入」(上・下) マーク・グリーニー著、伏見威蕃訳
長く続いているシリーズの新作だが、以前の作品を未読でも大丈夫なので、安心して手に取られたい。内容が続いているわけではないのだ。
主人公のグレイマンが、今回は内戦下のシリアに潜入する。ある依頼を受けたからだが、それがどんな依頼なのかは、ここに書かないでおく。内戦下のシリアに潜入する、というだけでもその困難が容易に想像できるというものだ。
まず、政府正規軍に、政府寄りの私兵団がいくつもある。対する反政府勢力にもさまざまな組織があり、たとえば自由シリア軍に、シリア民主軍。後者はISIS打倒を掲げる反体制組織だ。他にも、シリアのスンニ派を中心とする反シリア政府組織で「シリアのアルカイダ」と呼ばれていたアルヌスラ戦線(数年前にアルカイダからの離脱を発表)、さらには石油ルートや密輸ルートを奪い合うギャング組織もいれば、イランやロシアもシリアに派兵したりして、もうぐちゃぐちゃである。誰が敵で、誰が味方なのか、皆目わからない混沌のただ中に、グレイマンは飛び込んでいくのである。相変わらずアクションも快調で、読み始めたらやめられない。
冒険アクション小説は最近めっきり少なくなり、その手の作品が好きな読者は寂しい思いをしているが、グリーニーがいれば大丈夫。迫力満点のアクションを今回もまた、たっぷりと堪能されたい。 (早川書房 各860円+税)