著者のコラム一覧
佐川光晴

◇さがわ・みつはる 1965年、東京都生まれ。北海道大学法学部卒業。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞受賞。02年「縮んだ愛」で第24回野間文芸新人賞、11年「おれのおばさん」で第26回坪田譲治文学賞受賞。著書に「牛を屠る」「日の出」など多数。「大きくなる日」は近年の中学入試頻出作品として知られる。

第1話 じゃりン子チエは神 <2>

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 誰よりも喜んでいたのは、大手スポーツメーカー・コーガに勤める妻の莉乃だ。自分が売り込んだわけではないと真顔で否定していたが、三男は今でも妻のことを多少疑っていた。いずれにしても、新体操選手山田美岬は一夜にして有名人になってしまったのである。

 千春の担任・井波先生がしっかりした方で、からかった男子たちを厳しく叱り、電話で三男に事情を伝えてくれた。千春も謝罪を受け入れたというが、心に負った傷はよほど深かったようで、家でも学校でもまったく口をきかなくなってしまい、三男は頭を抱えた。

 唯一幸いだったのは、美岬が日本代表の合宿に入ったことだ。家で顔を合わせれば、どうしたって気まずいし、こんなことが原因で姉妹が仲違いされてはたまらない。

 三男は気分転換に東京ディズニーランドに行こうと誘ったが、千春は頑なに首を横に振るだけだった。

 (つづく)

【連載】昭和40年男

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