「メイン・ディッシュ」北森鴻著

公開日: 更新日:

 優れた料理人には鋭敏な味覚と同時に多様な食材の特性を引き出しながらTPOに合わせた料理を作り上げていく豊かな想像力が必要だ。名探偵もまたインスピレーションを頼りに細かな断片をつなぎ合わせて事件の構図をつくり上げていくが、そこで必要なのはやはり想像力だ。

 この料理と推理の共通するところが、料理ミステリーが輩出されるゆえんだろう。連作ミステリーというスタイルの本書にも推理力に優れた料理上手が登場するが、その人物自身が謎の中核になるという複雑な仕掛けが施されている。

【あらすじ】小劇団「紅神楽」を主宰する女優・紅林ユリエの恋人で同居人のミケさんは料理の達人で、劇団員たちはその料理目当てにユリエの部屋に夜な夜な集まってくる。この日も中華風ブイヤベース、パストラミのサラダなどが並べられた。 しかし、公演間近というのに劇団の代表にして座付き作者の小杉隆一の台本が出来上がっていない。今度の芝居は高級料理店を舞台に起こる殺人事件だが、犯人の動機が決まらずに困っているという。そこでミケさんがある調味料のことを話すと、小杉ははたと膝を打ち、なんとか台本が完成する。

 これが第1話「ストレンジ テイスト」で、続く第2話「アリバイ レシピ」では語り手がユリエから滝沢良平という男に代わり、ある大学でかつて起きた自殺と失踪事件が語られる。そこで鍵となるのはカレーの作り方……。

【読みどころ】第3話は再びユリエの語りに戻り、ミケさんの料理と推理が披歴されるのだが、合間合間に2話の系列の話が差し込まれ、話が進むにつれ2つが結びつき、ミケさんの正体も明かされていく。非常に入り組んだ内容で歯応えがあるが、読後の満足感もたっぷり。 <石>

(集英社 630円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  4. 4

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  5. 5

    timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願

  1. 6

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  2. 7

    国民民主党“激ヤバ”女性議員ついに書類送検! 野党支持率でトップ返り咲きも玉木代表は苦悶

  3. 8

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  4. 9

    波瑠のゴールインだけじゃない? 年末年始スクープもしくは結婚発表が予想される大注目ビッグカップル7組総ざらい!

  5. 10

    アヤックス冨安健洋はJISSでのリハビリが奏功 「ガラスの下半身」返上し目指すはW杯優勝