「30センチの冒険」三崎亜記著
ユーリは実家に戻るためにバスに乗ったが、寝過ごして終点まで行ってしまった。何かのついでに来たはずなのに本来の目的が思い出せない。バッグの中に30センチのものさしと水色の本が入っていた。歩いて戻ろうとすると、闇のなかで何かがやってきてユーリを包み込んだ。「助けてくれ!」と叫ぶと、「つかまって!」という声がする。ものさしをその声の方に差し出すと、それを掴んだ女性が覆いかぶさってユーリを守ってくれた。
彼が迷いこんだのは、隣の建物が遠くに見え、彼方の建物が異様に近く見える「遠近」という概念が破壊された世界だった。だがユーリには、元の世界に、ゼッタイに会いに行くから! と約束した人がいた。
異界に迷いこんだ青年の物語。
(文藝春秋 1850円+税)