「愛し続ける私」十朱幸代著

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 芸能生活60年を迎えた女優、十朱幸代の初の自伝。俳優・十朱久雄を父に持ち、幼い頃から人前に出るのが好きだった。15歳の時、父親について見学に行ったNHKでスカウトされ、連続テレビドラマ「バス通り裏」の元子役に抜擢された。学校を早退して、夜7時15分からの生放送に出演、お茶の間の人気者になった。せりふを忘れても動じない天真爛漫な少女だった。

 十朱幸代は1942年、東京・日本橋生まれ。3人きょうだいの真ん中で、幼少時を奈良で過ごした。

 8歳で上京し、中学時代から少女雑誌のモデルを始めた。父の資質を受け継いだのか、ごく自然に女優への道を歩みだす。5年間続いた「バス通り裏」の後、木下恵介監督の映画「惜春鳥」で、美少年だった津川雅彦の相手役を務めた。成り行きで始めた女優業を自分の仕事にする、と決めたのはこの頃だった。

 テレビが映画より軽く見られていた時代、テレビ出身の駆け出し女優は、スターの相手役や脇役に便利に使われながら、女優魂を目覚めさせていく。師匠はいない。劇団の先輩もいない。学校で学んだこともない。手探りで女優の階段を上がっていった。そして30代を迎え、芸術座の舞台「おせん」で史上最年少の座長を務め、舞台に開眼する。

 その間、私生活では、実質的な夫婦関係にあった小坂一也との別れがあった。その後のモテ期到来で「恋多き女」と呼ばれたが、いつも結婚より女優を選んでしまう。好きな相手にのめり込んでしまうため、「恋愛すら、仕事をする上で本当は邪魔だった」とさえ言う。

 60代の終わりには、痛む両足首の大手術を乗り越えて舞台に復帰した。さまざまな女を演じ、恋を重ね、自らを熟成してきた女優は今、自由で孤独な自分を楽しんでいる。「今の私の姿は、私自身が選んだ結果」。きっぱりした生き方が潔い。

(集英社 1700円+税)

愛し続ける私

【連載】人間が面白い

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