「夜間飛行」北迫薫著
岬の町の料亭、富貴楼で、経営者の増澤干支吉の娘、裕子の葬儀が行われた。県知事や代議士、芸能人の花輪が並ぶ会場に黒塗りのハイヤーが止まり、強い香りとともに降りてきたのは、まるで結婚式に招かれたようないでたちの奇妙な一団だった。その中の一人、髪を七三に分けてポマードで固め、ネクタイにダークスーツ姿の人物は、誰が見ても女だったが、過剰にまで男としてふるまっていた。後日、東京からチョコレートのギフトセットが届いた。送り主は銀座「姫」のママ、山口洋子だった。裕子は「姫」のナンバーワン「女給」だったのだ。
昭和の文士たちに愛され銀座の華とうたわれた女の数奇な人生を描く。
(新潮社 1600円+税)