日常の変容を体験!文庫で読むミステリー小説特集

公開日: 更新日:

「不協和音」クリスティーン・ベル著 大谷瑠璃子訳

 入れた覚えのない金がバッグに入っている、兄から奇妙な電話がかかってくる。ある日、ちょっとした不穏な出来事が起き、それから少しずつ日常が変容していく。そういうスリリングなミステリーを紹介しよう。



 夫のデズモンドを亡くしたリリーの元に、ピンクの封筒でバレンタインカードが届いた。「親愛なるリリアン」という書き出しで、デズモンドの死を大学の同窓会誌で知ったが、1年間ずっと悲しみに浸れたあなたが羨ましいと書かれていた。差出人のジャズ・エルウィンという名に心当たりはない。

 その後、バッグに入れた覚えのない100ドル札が入っていたり、泣いている女からデズモンドと話したいという電話がかかるなど、奇妙な出来事が続く。電話の女は「そこにいるのはリトル・デズか」と聞いたが、そう呼ぶのは義母のケイだけだ。結婚記念日には、高級デパートからウエディングドレスが届いた。「記念日おめでとう、リトル・デズ」というメッセージを添えて。

 未亡人が正体不明の悪意に追い詰められるサイコスリラー。

(小学館 940円+税)

「隠れ家の女」ダン・フェスパーマン著 東野さやか訳

 1979年、CIAベルリン支局のヘレン・アベルは隠れ家の2階で、階下から聞こえる、聞いてはいけない会話を録音してしまった。恋人のボーコムは消去しろと言う。その後、やはり隠れ家で、ベルリン支局の現場担当官ギリーが、潜入スパイのフリーダをレイプしているのを目撃するが、口をつぐむしかなかった。

 2014年、ボストンの自宅で、ヘレンは夫とともに、息子のウィラードに殺された。ヘレンの娘のアンナは、弟が誰かにマインドコントロールされていると考え、近所に住む連邦検事局で仕事をしていたヘンリー・マティックに調査を依頼する。だが、実はマティックはある男から、ヘレンについての調査を命じられていた。ある日、アンナはヘレンが若い頃、連邦職員だったことを知る。冷戦下のベルリンと現在のボストンを舞台にしたスパイ小説。

(集英社 1400円+税)

「汚れた雪」アントニオ・マンジーニ著 天野泰明訳

 イタリアのスキー場で死体が見つかった。ローマから左遷された副警察長ロッコ・スキャヴォーネが捜査に行くと、それは雪に埋もれて半分凍った死体で、しかもスキーキャットに粉砕されてぐしゃぐしゃに撹拌されていた。足にはスキーではなく、牛革ブーツを履いている。右胸だった断片に、ヒンズー教のマントラのタトゥーがある。解読すると、「何らの障壁もわれらの間に生起することのなきよう」と書かれていた。気管にはバンダナが入っていて、歯が2本ついた舌が包まれていた。

 やがて、ハリウッド女優によく似た女が、夫が昨夜から帰ってこないと警察にやってきた。発見された死体は顔が判別できないとロッコが告げると、夫の胸にはタトゥーがあると言う。

 目的のためには法も踏みにじる凄腕警察官を主人公にしたイタリアの人気シリーズ。

(創元社 1100円+税)

「白の闇」ジョゼ・サラマーゴ著 雨沢泰訳

 交差点で立ち往生している車の窓を、後続車から降りてきた人たちが叩いた。車内の男が何か叫んでいる。車のドアを開けて、その男が何を言っているのかわかった。「目が見えない」。さっきまで視野にあったものが、突然消えうせたという。誰か家に連れていってくれませんかと懇願するので、ひとりの男が失明した男を家まで送り届けたが、車を盗んでいった。車泥棒は、車を降りて30歩も行かないうちに目が見えなくなった。最初に失明した男は妻に、目の前が真っ白なんだと訴えた。妻は男を診療所に連れていったが、医師は何も異常は見当たらないと言う。

 医師が医学書を調べて本棚に戻そうとしたとき、両手が見えなくなり、自分が失明したことに気づいた。ミルク色の闇が人々に感染していき、世界のありようを変えていく。

 ノーベル賞作家が描く白い世界の恐怖。

(河出書房新社 1300円+税)

「もし今夜ぼくが死んだら、」アリソン・ゲイリン著 奥村章子訳

 高校生のウェイドは母ジャクリーンのフェイスブックに、「みんながこれを読むころには、ぼくはもうこの世にいない」と、母と弟のコナー宛てに書き込んだ。その5日前の深夜、ジャクリーンは、ウェイドがポーチで星を見上げながらたばこを吸っているのを見た。

 翌日、ジャクリーンの元を警官が訪れ、ウェイドの同級生リアムが盗難車にひかれたという。それは往年の人気歌手エイミーの車で、リアムは盗難に遭った彼女を助けようとしてひかれたと、エイミーは警官に証言した。学校から帰ったコナーにウェイドから電話がきた。コナーの部屋のクローゼットに入っている袋を、ガソリンスタンドのゴミ箱に捨てろと言う。クローゼットに袋を押し込んだとき、ウェイドがずぶ濡れだったことをコナーは思い出す。小さな町を舞台にしたミステリー。

(早川書房 1260円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲