「『色のふしぎ』と不思議な社会」川端裕人著

公開日: 更新日:

 学校健診でかつて行われていた色覚検査は差別につながるということで2003年に事実上廃止されたが、15年ごろからほぼ復活している。「児童生徒が自身の色覚の特性を知らないまま不利益をうけることのないよう」という理由だ。果たしてこの主張は妥当なのかと疑問を感じたのが、自身、先天色覚異常の当事者である著者だ。

 本書は、最初に色覚検査が復活する経緯を考察し、次に先天色覚異常の当事者が被った差別の歴史を掘り起こす。そこからさらに視野を広げて、霊長類の色覚の多様性がどのような意味を持っていたか、21世紀の色覚研究の最先端の知見を紹介し、著者自ら最新の色覚検査を体験するなど、読者を未知の世界へと引き連れていく。

 色覚とは味覚と同じように色の「感覚」だ。甘さや苦さがあくまでも主観的なのと同じに、赤や緑などの色の感覚も人によって違う。そもそも光そのものは無色で、リンゴの表面から目に届く光の特徴に応じて脳内で色を塗って得られるのが、「赤」という色の感覚だ。

 色覚異常とは、正常とされる他の大勢の人とは色が異なって見えてしまう状態のことで、たとえば危険を知らせる赤が見えにくい場合がある。そのことで進学や職業選択が狭められていた。しかし、赤を少し黄方面に寄った朱色にすると画期的に見え方が改善するという。現在では色のバリアフリーと呼ばれる観点から、多様な色覚に対応する標識デザインなどが登場している。またヒトを含む霊長類は赤、緑、青の3色覚が正常とされるが大部分の哺乳類は2色型が標準。同じ霊長類でも2色型がいて、なぜこうした分離が起きたのかも研究されている。

 著者が強調するのは、色覚というのは非常に多様であり、そこには「正常」と「異常」の明確な線引きはなく、あくまでも連続したものであることだ。そうであるのに「先天色覚異常」という言葉がいまだに使われ続けていることに異議を申し立てる。色覚のみならず、他のさまざまな分野においても考えなければならない重要な示唆であろう。 <狸>

(筑摩書房 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲