「非国民な女たち」飯田未希著

公開日: 更新日:

「ぜいたくは敵だ」「パーマネントはやめましょう」といった標語が掲げられた戦時期の日本女性といえば、真っすぐな髪を後ろで束ねモンペをはいた姿が思い浮かぶ。戦時体制の下、世を挙げて華美なファッションが忌避されていた時代に、パーマをかけたり肌の露出が多い服を着ていたら「非国民」と非難されてしまうに違いない――。そんな従来のイメージを覆すのが本書だ。

 例えば敗戦2年前の1943年、「婦人画報」の文化学院の学生の写真を見ると全員がパーマをかけている。また41年に撮影された東京郊外の小平村役場に写る女性8人のうち4人がパーマをかけていて、44年の小平村女子青年団音楽隊の写真ではほとんどの女性がスカートとブラウスの洋装姿で一部パーマをかけている。

 つまり都心と郊外にかかわらず、多くの女性が時局に逆らって「お洒落」をしていたことがわかる。それを裏付けるように、パーマが実質的に禁止されて以降もパーマをかけようと美容院に行列する女性たちの写真も紹介されている。また戦時国民服として奨励されたモンペだが、当時の女性たちにはダサいとして人気がなく、少しでも見栄えをよくしようとさまざまな工夫が施されている。

 こうした女性たちの美=お洒落への志向を支えたのが、「敵性文化」として批判されながらも地道にパーマネント機を造り続けた製造業者とパーマネントの普及に腐心した美容業者であり、和服から洋服への転換を大きく促した洋裁学校や積極的に洋裁の利便性と美しさを伝えた婦人雑誌の存在であった。

 パーマの普及はそれまでの日本髪を結う面倒くささからの解放であり、非常時だといって「軽便で、能率的で、しかも女性らしさを失わない」パーマの禁止を強いるのは「封建的男性の身勝手」だと新聞に投稿した女性の主張は見事。国家権力が自粛を押しつけてくるときに、パーマのような不要不急のもの、あるいは美を求めるという個人的な欲望を盾に抵抗した戦時下の女性に、今こそ学ぶべきではないだろうか。 <狸>

(中央公論新社 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘