「大地と生きる北米先住民族の矜持」鎌田遵著

公開日: 更新日:

 研究者の著者によると、アメリカやカナダは、ヨーロッパからやってきた白人たちが建設した「移民の国」として理解されているが、実際には「依然として数多くの部族や先住民国家が伝統を紡いでいる『先住民族の国』でもある」という。

 事実、アメリカの連邦政府が認定している部族数は574、先住民族が守り抜いた土地、部族自治権のもとにある居留地は300以上に及ぶ。同じくカナダにも600以上の先住民国家、3100カ所以上の居留地が存在するそうだ。

 本書は、約30年間にわたって、両国の先住民族の居留地やコミュニティー100カ所以上を巡ってきた著者が撮影した写真集。

 ページを開くとまず目に飛び込んでくるのは、伝統の装束で着飾った人々だ。

 彼ら彼女らはダンサーで、アメリカのニューメキシコ州ギャラップをはじめ、ワシントン州エレンズバーグやカナダのアルバータ州議事堂前、そして各居留地などのさまざまな場所で行われるダンスの祭典「パウワウ」で撮影されたものだという。

 鳥の羽根で作られた扇のようなものを手に、馬が描かれた衣装を着る女性、水牛だろうか、獣の角と毛皮で作られた頭飾りに、牙のネックレスでおしゃれをする男性、中にはクマ、それともオオカミだろうかその頭部がそのまま残る毛皮を頭にかぶった男性などもいる。

 ほかにも、ビーズやフリンジ、刺繍など、さまざまな装飾を駆使して、伝統にのっとりながらも各人が思い思いのおしゃれを楽しんでいる。

 全編がモノクロ写真なのだが、その鮮やかな色彩までもが感じられるほど、この日のために気合を入れて着飾っていることがよく分かる。

 ダンサーとはいっても、本職ではなく、パウワウは参加型の祭典であり、登場する先住民の人たちは老若男女さまざまで、全身をばっちりと決めた幼児もいる。

 中にはスマホを手にしたおじさんなどもおり、その豪華な装束と現代的なアイテムの組み合わせに親近感を抱いたりもする。

 後半は、一転して素顔の彼らの日常生活の一場面をスナップした作品が並ぶ。

 買い物帰りのワンショットや、スタンドで車にガソリンを入れたり、バーベキュー、そして結婚式やファミリー写真など。

 巻末に添えられた情報は、名前と部族名、撮影地、そして撮影された年だけ。

 カメラに向かって柔らかくほほ笑みかける彼ら彼女らの表情からは、当人やその両親、祖父母、さらに延々とさかのぼり、何代にもわたって差別や偏見、虐待や虐殺、暴力と貧困にさらされてきた歴史を読み取ることはできない。

 しかし、一人一人の人生がここにあることのほうが不思議なほどの苦渋を彼らは味わってきたのだ。

 そうした歴史に思いを馳せながら、写真を眺めていると、一人一人の、そしてその背後に刻まれてきた何代もの物語が立ち上ってくる。

(論創社 4180円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋