「帝国の遺産 何が世界秩序をつくるのか」サミール・プリ著 新田享子訳/東京堂出版

公開日: 更新日:

 英国出身の国際政治学者サミール・プリ氏は、<私たちは、個人としても国としても、帝国主義時代から多様な過去を引きずっている。背負っている過去が違えば、世界の見方がこれほど異なるのだと、この本をきっかけに、もっと強く意識してほしいと願っている>と強調する。

 ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの国家主権と領土の一体性を毀損する行為だ。本書を読むとロシアのプーチン大統領がこのような決断をした理由がよくわかる。

 プリ氏は、ロシアの外交政策の特徴が以下の点にあると考える。

<すべての外交政策は内政から始まるが、プーチン政権の場合、ロシアが一九九○年代に威信を失うと同時に行き場を失った国民の誇りを掘り起こし、彼らの誇りに報いることに徹してきた。プーチンは国民へ、ロシアが決して外国から指図されることなく、西側の威圧や干渉から解放され、ロシアの運命を切り拓いていこうと呼びかけ、彼の政策もその意思を表明している。プーチンが、「何千万人もの同胞がロシア領土の外に放り出された」わけだから、「ソ連崩壊は今世紀最大の地政学的惨事だった」と発言したのは有名である>

 プーチン氏はソ連崩壊によって分断された広義のロシア(大ロシア=ロシア、小ロシア=ウクライナ、白ロシア=ベラルーシ)を回復しようとしているのだ。恐ろしいのは、ロシア国民の大多数がプーチン氏と同じ野望を抱いていることだ。

 プリ氏は、<プーチンは優れた諜報員らしく、計算ずくで行動している。運命を操作しているように見えても、物事が自然発生的に起きるのを虎視眈々と見つめ、タイミングを見計らい、自分に有利になると判断したときには決然と行動に出る>と指摘する。

 米国のバイデン大統領が内政上の理由でウクライナに米軍を派遣することは絶対にできないタイミングであるとプーチン氏は判断したので、このタイミングでウクライナ侵攻に踏み切ったのだ。

 プーチン氏の短期的目標はウクライナのゼレンスキー政権の打倒だが、中長期的にはウクライナを細分化し、東方から段階的にロシアに併合することを考えているのだと思う。 ★★★(選者・佐藤優=2022年3月6日脱稿)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    U18高校代表19人の全進路が判明!プロ志望は7人、投手3人は中大に内定、横浜高の4人は?

  2. 2

    「時代に挑んだ男」加納典明(43)500人斬り伝説「いざ…という時に相手マネジャー乱入、窓から飛び降り逃走した」

  3. 3

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  4. 4

    永野芽郁が“濡れ場あり”韓流ドラマで「セクシー派女優転身、世界デビュー」の仰天情報

  5. 5

    《浜辺美波がどけよ》日テレ「24時間テレビ」永瀬廉が国技館に現れたのは番組終盤でモヤモヤの声

  1. 6

    沖縄尚学・末吉良丞の「直メジャー」実現へ米スカウトが虎視眈々…U18W杯きょう開幕

  2. 7

    世界陸上復活でも「やっぱりウザい」織田裕二と今田美桜スカスカコメントの絶妙バランス

  3. 8

    「24時間テレビ」大成功で日テレが背負った十字架…来年のチャリティーランナー人選が難航

  4. 9

    15年前に“茶髪&へそピアス”で話題だった美人陸上選手は39歳、2児のママ…「誹謗中傷もあって病んだことも」

  5. 10

    日本ハム新庄監督は来季続投する?球団周辺から聞こえた「意味深」な声