「歴史なき時代に 私たちが失ったもの 取り戻すもの」與那覇潤著/朝日新聞出版

公開日: 更新日:

 冒頭から著者の「残念です!」といった感覚が伝わってくる本である。新書にしては分厚い449ページのこの本は、思想家としての著者が今の世の中に対して本気で訴えたいことが詰まっている。

 2020年初頭に開始した新型コロナ騒動(あえて「コロナ禍」とは書かない。理由は、単なる騒動だったからである)は、多くの人々の行動を制限させ、楽しさを潰した。子供たちはマスクを着けさせられ、修学旅行や行事を潰された。政治家は「今だけ我慢」「勝負の〇週間」などと、「欲しがりません勝つまでは」的な根性論をぶちかまし続けた。

 著者の諦めが最大限に表れたのが「学者たちはなぜコロナで無力だったか」という項目だ。死者が日本よりも圧倒的に多かったアメリカとイギリスに比較し、日本が少なかったことを述べたうえで、こう続く。この頃のアメリカの死者は、10万5000人、イギリスは3万8000人だ。

〈日本で歴史学者と称している人たちはなんですか。日本の総人口は1億2000万人を超えているのに、同じ時点でコロナの死者はわずか900人。日本で死者が累計1万人に達したのは、丸々1年間をかけた21年4月で、この時米国の総死者数は57万人超。脅威の度合いが比較にならない規模なのは、誰にも分かる。

 ところが、あたかも「政府が自粛しろって言うんだもん。民意も怖がってて、逆のことを言ったら叩かれるもん」といわんばかりに、彼らはこの間、大学の研究室どころか自宅に引きこもり、SNSではお友達どうし、ずーっと内輪でZoom研究会の宣伝だけ(失笑)。そりゃ、「こいつらに税金使いたくない」と思われてもしかたないでしょう〉

 まさに正論であり、今回の新型コロナ騒動は、まともな知識人はその茶番性に気付いていたというのに、「とりあえずまぁ、茶番性を批判したら私は叩かれるからな……。あと、私、ちゃんとお金入ってくるから」とばかりにその茶番性を批判しなかった。

 なぜ「マスクをピタッと着けたから第5波は収束した」といった専門家と称するテレビ芸人を歴史学者らは批判しなかったのか。與那覇氏は、今回の騒動について週刊誌等の取材にも「数字に追われ過ぎ」といった批判をしてきた。

 本書はそんな同氏がいかに絶望したか、何が日本の問題なのか、といったところを余すことなく記している。コロナ、いや、コロナ騒動にうんざりしている人は読むべし。 ★★★(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  2. 2

    紗栄子にあって工藤静香にないものとは? 道休蓮vsKōki,「親の七光」モデルデビューが明暗分かれたワケ

  3. 3

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  4. 4

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  5. 5

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  1. 6

    永野芽郁×田中圭「不倫疑惑」騒動でダメージが大きいのはどっちだ?

  2. 7

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 8

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動

  4. 9

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 10

    永野芽郁がANNで“二股不倫”騒動を謝罪も、清純派イメージ崩壊危機…蒸し返される過去の奔放すぎる行状