戦争から名著まで 大人の漫画特集

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「漫画 人間とは何か?」鷹巣☆ヒロキ漫画 石原剛監修

 世界に誇る日本の漫画。子供向けだけでなく、大人だからこそ楽しめる重く、深く、泣ける内容の作品も数々ある。今回は、戦争や文豪の名著、そして命などをテーマにした5冊をピックアップ。たまには大人の漫画にどっぷりハマってみてはいかがだろう。



トム・ソーヤの冒険」など数多くの作品を残した文豪マーク・トウェインは、晩年、妻と子供に先立たれた後、匿名で「人間とは何か」という作品を残した。その主張は「人間は機械である」というもので、当時大きな批判が起こった。その衝撃の名著を漫画化。

 ある雪の日、裕福な青年はみすぼらしい老婆に金を与え「良いことをした」と満足していた。すると、連れの初老の男性が「金を渡さずに帰ったら、気になって眠れなかっただろう。己の満足のために払ったんだ」「人間は承認を求めて動く単なる機械にすぎない」と言うのだ。

 納得のいかない青年は、シェークスピアの功績やさまざまな事例で反論するが、「人間は過去からの寄せ集めのガラクタであり、すべては気質と外的環境で決まる」という説に歯が立たない。しかし対話を進めるうち、青年は老人の主張が自他への「赦しの思想」につながっていることに気づく。

(文響社 1848円)

「ゆるリーマン」新藤たそ著

 大学に通う友人がため息をついている。テストの成績が悪いと単位をもらえない授業があるが、一問も解けなかったという。友人はテスト用紙に「アイラブユー」というメッセージを記し、キスマークをつけてハニートラップを仕掛けてみたが、結果はまだ分からないと言う。聞いている方は気持ち悪いが、そう言える自信がすごい!

 俺と幼馴染みのけいつんとは以心伝心すぎて、驚くことがしばしばある。俺が狙っていた靴の発売日に仕事をしていたときのこと。けいつんから電話がかかってきて「いま店の前を通ったら、欲しいって言ってた靴あるで。買っておこうか」。まさに神!!

 高校からの友人・村山から宅配便が届いた。誕生日プレゼントだが、先々月に早めのプレゼントをもらったばかり。手紙が入っていた。来年のプレゼントを買ってしまったから送ると。

 若サラリーマン・だいすけと男友達らとのゆる~い日常をつづるコミックエッセー。

(文藝春秋 1100円)


「石の花 全5巻」坂口尚著

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く今、読んで欲しい本作。ナチスに侵攻された第2次世界大戦中のユーゴスラビアを舞台に、正義と平和を追い求める若者たちの姿が描かれている。

 少年クリロと同級生の少女フィーは、学校の授業で鍾乳洞を見学した帰り道、ドイツ軍機の銃撃にあう。クリロは運良く生き延びることができたものの、すでに故郷の村はドイツ軍が制圧。ひとりぼっちになったクリロは人民解放軍のパルチザンに参加し、残酷な戦いの中に身を投じていく。

 一方、フィーも生き延びていたものの、強制収容所に連行されてしまう。丸刈りにされ番号をつけられたフィーを待っていたのは、重労働と飢餓と激しい暴力だった。

 1983年から3年にわたり連載されていた作品を再編集した新版。戦争の悲惨さ、無意味さを突き付けられる。

(KADOKAWA 1~4巻1870円、5巻2310円)

「ピノ:PINO」村上たかし著

 主人公のピノは、世界で初めてシンギュラリティー(人間の知能を超えた)に到達したAIを搭載し、さまざまな場所で活躍している。そのうち1体は、山奥の無人研究所で新薬の開発を担っていた。日々の業務は、動物たちを手厚く世話し、健全で健康に成長させること。そして大きくなったら、ピノの手で薬品を打ち解剖し、次々と殺す。新薬開発のためとはいえ、ピノが心を持たない存在で良かったと、施設責任者のタキモトはいつも思っている。

 あるとき、動物実験禁止条約が締結され、研究所は生物も機械も含めて爆破されることになる。着々と準備を進めるピノだが、最後の瞬間プログラムに反して自分を犠牲にし、動物たちを逃がす。

 そしてまた別の町では、認知症の老女と暮らす1体のピノがいた。サトルと呼ばれるピノは、老女を「お母さん」と呼んでおり……。

 心とは、命とは何かを考えさせられる、号泣必至の感動作。

(双葉社 1210円)

「少女が見た1945年のベルリン」クラウス・コルドン原作 クリストフ・ホイヤー作画・構成

 漫画は戦争のリアルを伝えるもっとも適した表現方法かも知れない。本作は、長編小説「ベルリン1945 はじめての春」を原作としている。

 ベルリンで祖父母と暮らすエネは12歳の少女。父親は強制収容所に連行され、母親もナチスに連れさられて行方知れずだ。時は1945年春。連合国軍による激しい空爆によって街は壊滅状態となり、地上にはソ連軍が迫っていた。エネたちは地下に避難するが、飢えに苦しめられる。地上に物資を探しに行こうとする少年たちに対し、ソ連軍に見つかれば男はシベリアの炭鉱送りとなり、女は兵舎の売春婦にさせられると忠告する大人たち。女性は目の前で息子を射殺され、5回強姦されたと話す。

 本作には、出征していた家族や強制収容所の生還者が子供たちに戦争の悲惨さを語って聞かせるシーンが多々ある。それが現在のウクライナの惨状と重なり暗澹たる気持ちになるが、目を背けてはいけない現実である。

(パンローリング 3080円)

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