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「プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争」山田敏弘著

 連日テレビで報じられるのはロシアのウクライナ侵攻情勢と中国の不気味な動き。旧共産圏の2大国はいまや世界の脅威だ。



 ロシアといえばサイバー戦争。米大統領選へのハッカー攻撃は、否定されているものの周知の事実といっていい。今回のウクライナ侵攻も同様。侵攻前、ロシアは大規模なハッカー攻撃やGPSによる電波妨害(ジャミング)を行い、ゼレンスキー大統領の暗殺も実行するが、未遂に終わる。

 これにウクライナは、暗殺計画の詳細をロシアからの内部通報でつかんだとしてSNSに投稿。国外逃亡をうわさされたゼレンスキーもキーウの街角で撮影した動画をアップするようになった。

 これらが功を奏し、欧米メディアは「暗殺をしりぞけた英雄」「亡命を拒んで首都にとどまる国民の味方」という大統領像をつくり上げたのだ。裏と表の情報戦の駆け引きによってプーチンは引くに引けなくなっていったという。

 他方、中国はグローバル化の過程で情報網の構築に注力し、デジタル・シルクロード計画で米国と覇権争いを展開。さらに習近平はトランプを手玉にとって利をむさぼった。国際情報とサイバーセキュリティーに強いと自負するジャーナリストの著者は、ネットニュースで得られた情報をもとに縦横に自説を展開している。

(文藝春秋 935円)

「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」遠藤誉著

 中国吉林省の省都・長春はかつての満州国の首都。ここで生まれた著者は戦後、ソ連兵にライフルを突き付けられた経験を持つ。当時わずか4歳だったという。いまでは中国問題を語る昼のテレビの常連コメンテーターだ。

 著者によると習近平はプーチンのウクライナ侵攻には否定的。侵攻の名目がウクライナ国内の少数民族(ロシア人)の「解放」にあるためで、少数民族問題を抱える中国にはタブーだからだ。しかし中ロはともに米国を敵とする間柄。経済的な結びつきは深い。これを著者は「軍冷経熱」と名づける。ロシアは液化天然ガス(LNG)で中国へのパイプラインを敷いているが、実は日本もサハリンでLNG開発をしており、日米同盟で日本が放棄すれば、中国はこの資源を格安で頂くことになるだろうという。ウクライナ問題は昔の冷戦とは構図が違うのだ。

(PHP研究所 1078円)

「中国、ロシアとの戦い方」アンドリュー・トムソン著 山岡鉄秀訳

 オーストラリア出身で日中両語が堪能。母国の議員や外務副大臣として日本とも深くかかわった。いまは福岡在住で夫人は日本人という著者。オセアニアから東アジアを見る目は日本と台湾を友とし、中国とロシアを脅威とみる。現在のウクライナ危機は、あすは台湾で起こることだからだ。

 日本は中国、ロシア、北朝鮮と「危ない国」に囲まれている。菅、岸田両政権は米バイデン政権との親密さを誇りたがるが、著者はバイデンと民主党を評価しない。著者の見立てでは、中国は台湾への侵攻を開始する前に、ベトナムやインド、オーストラリアなどに陽動攻撃をするという。直接攻撃ではなく、中国の海警に護送された漁船団を使って排他的経済水域に侵入し、ゲリラ的な戦術を繰り広げるとみる。

 ロシアより一枚上手の中国は油断できない。

(ワニブックス 1650円)

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