著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「汝、星のごとく」 凪良ゆう著

公開日: 更新日:

 瀬戸内の島の高校で知り合った男女が恋に落ちるところから始まり、卒業後に夢をめざして東京に行った男と、島に残った女の遠距離恋愛が始まっていく。こういう初恋物語はこれまでにたくさん書かれ、たくさん読んできた。つまり新味のないストーリーだ。そう言っていい。男の仕事がなかなかうまくいかないことの焦りも、2人のズレが徐々に生じてくることも、こういう場合の常套的な展開といっていい。

 では、本書は退屈な小説なのか。違うんである。とてもスリリングで、奥が深く、鮮やかな印象を残す小説なのだ。なぜか。

 本書の冒頭1行を引く。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく」

 たった4ページのプロローグで語られるのは、暁海が北原先生と結婚していて、先生は月に1度恋人に会いに今治に行く風景だ。先生の娘の結ちゃんもそして暁海も、それを普通に受け止めている。

 この光景がずっと残り続けるのだ。そこから始まるのは暁海と櫂の恋物語で、北原先生はわき役にすぎない。櫂と別れた暁海が年上の先生と結婚するだけの話を(これもよくあるパターンだ)凪良ゆうが書くわけがない。

 つまりこのプロローグが語るのは、これから始まる物語は普通の恋物語ではないぞという作者の強い宣言だ。そして、たった一度きりの切実な恋の物語が始まっていくのである。

(講談社 1760円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か