「服 服 服、音楽 音楽 音楽、ボーイズ ボーイズ ボーイズ」ヴィヴ・アルバーティン著 川田倫代訳

公開日: 更新日:

 1976年、22歳のヴィヴは、祖母が残してくれた200ポンドでエレクトリックギターを買った。音楽にハマっていたが、レッスンを受けたこともないし、ギターに触ったこともない。楽器店の店員はヴィヴをバカにした。エレクトリックギターを弾くのはすべて男だったから。

 そして彼女は向こうの世界に飛び出す。ボーイズにギターの手ほどきを受け、ロンドンで生まれた世界初の女性パンクバンド「ザ・スリッツ」にギタリストとして加わった。挑発的なファッションの4人組は、常識破りのやりたい放題。男社会の不公平と抑圧をはねのけるように、男子バンドを圧倒した。ヴィヴをつき動かしていたのは「怒り」だった。男の子たちに「カワイイ、やりたい」ではなく、「あのバンドに入りたい」と思わせたかった。

 自分らしく生きることは容易ではない。いつも何かに挑戦し、数えきれないほどの失敗と間違いを繰り返し、血と涙にまみれた。ドラッグ、暴力、セックス、中絶、流産、そして結婚。体外受精を繰り返して娘を出産。ギターもアンプも売ってバンドから離れ、エアロビクス講師をしたり、映像制作会社で働いたり。夫と娘と3人で家庭も築いた。でも、何かが違った。

「自分の身体を人生を自分でコントロールすること。これだけはけっして奪われてはならない」

 ヴィヴは17年の結婚生活を終わらせ、ファッションと音楽とボーイズの世界に戻っていく。50歳を過ぎて再びギターを弾き、発声練習をする。酷い。でも、これが私。60歳を越えたヴィヴは、今も反抗的で創造的なフェミニストだ。自分らしく生きたい女の子に勇気をくれる。

 500ページを超えるこの自伝にはミュージシャンやアーティストが数多く登場し、パンク全盛のロンドンの空気が濃厚に漂っている。

(河出書房新社 4620円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本は強い国か…「障害者年金」を半分に減額とは

  2. 2

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  5. 5

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  1. 6

    侍Jで加速する「チーム大谷」…国内組で浮上する“後方支援”要員の投打ベテラン

  2. 7

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」