「ウクライナ戦記 不肖・宮嶋最後の戦場」宮嶋茂樹著

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「これが戦争や」

 カメラマン宮嶋茂樹は、そこに立った者にしか撮れない戦場の真実を、遠い島国の傍観者である私たちに突きつける。

 一瞬でがれきになった大型ショッピングモール。廃虚と化した外国語学校。街の広場に突き刺さったままのミサイル。味方に置き去りにされたロシア兵の死体。虐殺された市民を安置所に運ぶ人々。飼い主をロシア兵から守れなかったことを悔いるかのように、じっと座ったまま痩せ衰えていく犬……。

 イラクやアフガニスタンなど世界の紛争地を取材してきた宮嶋は、ロシアによるウクライナ侵攻を知るや否や還暦過ぎの老体にムチ打って戦場を目指した。

「ワシが行かんと誰が行く?」

 戦時下の国への渡航は困難を極める。3月2日に日本を発って、10日後にようやくキーウ入り。それから4月17日までウクライナ各地を取材し、5月には再訪も果たした。

 ずっしり重い防弾チョッキを背負い、これまた重たいヘルメットをかぶり、カメラを担いで取材に出かける。日本の新聞社やテレビ局からは誰も来ていなかったが、日本でもウクライナ情勢が毎日、報道されていた。

 戦場に身を置く宮嶋には口舌の徒が吐き出すヘタレ空論にしか聞こえない。

 戦闘訓練を受ける民間人は真剣そのもの。森林に隠れて活動するドローン小隊は精鋭ぞろい。女性たちは前線に届ける大量の総菜を調理していた。男も女も、老いも若きも腹をくくっている。皆が、ひたすら勝利を信じて奮闘していた。

「有事のたびに肥え太る稼業」と自嘲しつつも、戦争犯罪の現場に立つ宮嶋は怒りまくっている。極悪非道な独裁者プーチンに対して、平和ボケしたノーテンキな同胞に対して。

 タイトルには「最後の戦場」とあるが、宮嶋が安心して引退できる世は、まだまだ来そうもない。

(文藝春秋 1980円)

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