No 脳! No Life! 最新脳科学最前線

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「脳の外で考える」アニー・マーフィー・ポール著 松丸さとみ訳

 思考、睡眠、運動、食事など、あらゆる人間生活と切っても切れないのが「脳」。しかし、脳についてまだよく分かっていない境地が存在するのも事実。今回は、そんな広大な未開の地の先頭に立ち、正しい脳との向き合い方へと導く5冊を紹介しよう。



 いたるところで耳にする「頭を使いなさい」という文句。これは、脳の限界を無視した「神経中心バイアス」であり、「脳の外」のリソース、つまり、体や環境、人などを利用することが重要だ。

 例えば放射線科医が大量の画像の中から疾病の画像を探し出す実験では、座って頭だけで作業するよりも、ウオーキングしながら作業した方が14%向上した。身体的な活動時は、視覚が鋭くなるように進化してきたためだ。

 運動が異なれば、作用も変化する。高強度の運動(40分以上のランニング)が引き起こす「一過性前頭葉機能低下」は脳のクリエーティブな活動を刺激。作家の村上春樹も実践している方法だ。ほかにも、「仕事の効率を1%下げて“従業員間の噂話”を許すと、長期的にはパフォーマンスが3%向上」「ディスプレーを大きくすればパフォーマンスが200~300%向上」など、脳科学の実践的な応用を知ることが出来る。

(ダイヤモンド社 2420円)

「『音楽する』は脳に効く」重野知央編著

 脳には、刺激ごとに担当する専門部位が分業して処理する「機能局在」という機能がある。

 一方で、音楽を処理するときに働く特定の部位はない。最新の説では、「すべての部位に刺激を伝達する音楽細胞が脳の全体にある」といわれており、音楽が脳全体を活性化するといわれる。

 音楽で養われる「脳の聴く力」は、子どもの成長に大きく影響すると本書は紹介。神経伝達や感性が磨かれ、コミュニケーション能力や記憶力、判断力なども高める。多様なジャンルの音楽をできるだけ生で聴かせ、脳内で行われる処理をゆっくりと待ってあげることが親には必要だという。

「脳の老化防止」にも音楽は有効。思考や意欲、感情など、人間らしい機能をつかさどる「前頭葉」は、アウトプットで活性化する。ハミングや鼻歌でもいいので作曲してみることが効果的だ。

 4人の医師と5人の音楽愛好家が「音楽する」人という存在に迫る。

(学研ホールディングス 2200円)

「脳と心」毛内拡監修

 脳は、都合よく現実を解釈する、報酬系に従って幸福や快楽を最大化する、という2つの特徴を持っている。これらの特徴によって「心」が生み出される。

 欧米の先進企業では、この脳科学の知見を応用して、ビジネスを最大化することが当たり前のように行われているのだ。

 例えば、「部下は褒めて伸ばす」ということ。さらに、褒めるときは時間を置かずにすぐ、できるだけ具体的に「ここが良かった」と褒めるようにすることが重要。時間が経過している間や、あいまいな褒め方は、脳に勝手な解釈の余地を残してしまう。

「食事で信頼関係を築く」ということも紹介される。食事をともにすると、脳内で不安を抑えるオキシトシンが分泌される。これを相手への絆と勘違いする「吊り橋効果」と同じような脳の勝手な解釈を利用することが出来る。

 多くの不思議に満ちている「脳と心」の関係。脳の性質への理解を通して心の謎へと切り込む。

(ナツメ社 1760円)

「忘れる脳力」岩立康男著

「忘れるのは悪いこと」という前提が人口に膾炙(かいしゃ)しているが、最新の脳科学は「脳は記憶を積極的に消す機能を持っている」という事実を示している。

 忘れることには、単に時間の経過によって記憶が薄れる「消極的忘却」と、脳を正常に働かせるための「積極的忘却」の2種類がある。後者では、「Rac1」というタンパク質分子と「マイクログリア」という免疫細胞などが作用して脳の回路が再整理される。脳は、効率的な思考と感情の整理のために記憶を消しているのだ。

 そして、「物忘れ」とされているのは、いつどこで、といった過去の体験(エピソード記憶)の忘却であり、これらを忘れることによって、脳は新たな記憶を獲得することに注力できる。物忘れは「脳が健康な証拠」なのだ。

 忘却を恐れず積極的に新しい知識に触れ、忘れたら「質問する」ことが重要であると背中を押してくれる一冊。

(朝日新聞出版 891円)

「脳の教科書」三上章允著

 脳についてのさまざまな記述の中には、不適切な表現が含まれていることが少なくない。

「脳が大きいほうが頭が良い」というのは、その典型。日本人の平均(男性1457グラム、女性1293グラム)に対して、化学者のブンゼン(1295グラム)、ノーベル賞作家のアナトール・フランス(1017グラム)、物理学者の湯川秀樹(1370グラム)らの脳は標準よりも小さい。

 また、「われわれが使っているのは脳の3%だけ」というのも嘘。細胞活動を記録すると多くの細胞が一定レベルの活動電位を出し続けている。さらに、脳には領域・場所によって役割分担があり、与えられた課題に関連した脳領域が働く。「使われていない97%を使うことで機能を高める」と言われることがあるが、役割に関係なく大量に活動している状態は、てんかんの発作と同じだという。

 複雑で神秘的な脳の世界の全体を見通す見識が得られる入門書。

(講談社 1980円)

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